『はかないダイヤモンド』-6
そんな時、久しぶりに二人一緒の出演依頼が来た。
その仕事は、お笑い芸人が大勢出演する特別番組だった。
有名なベテラン芸人のトーク番組で、大勢の芸人の中で一際目立つためには、抜きん出た腕が必要だった。
そして、俺達にはそれがある。
堤はアドリブが苦手だが、俺がそれを補えばよいのだ。
まだ駆け出しの頃には、自分の事で精一杯で、堤の事にまで手が回らなかった。
でも、今なら出来る。
だから、これはチャンスだった。
この特番で堤の実力をアピールして、また前みたいに二人で観客を爆笑の渦で包んでやる。
その仕事のオファーがあった夜、どうしても来いと恵理子に呼び出されて、恵理子のアパートに行った。
恵理子のアパートは築何十年のボロアパートで、夜に見ると不気味だった。
こんな所に一人で住んでいる恵理子を思うと、少し胸が痛んだ。
その日の恵理子は言葉少なめだった。
それに、恵理子の部屋のドアを開けた時から、一度も俺と目を合わせようとしない。
そのくせ、時々俺をちらちら俺を盗み見ている。その事が少し気に障った。
「今度、さんまさんの番組に出るんだ」
恵理子の部屋は狭いが片付いていて、妙に居心地が良かった。
恵理子がいくらムカつく行動をしても、顔に出さずにいられそうなくらいだった。
「ホントに? すごいじゃん」
先日のドッキリの仕掛け人や、仕事で会う芸能人に比べると、明らかに地味で垢抜けていない恵理子はどこか俺の気持ちを楽にさせた。
だから、今でもつるんでいるのかもしれない。
「で、なんだ今日は? 急に呼び出して」
俺が恵理子を呼び出すことはあっても、恵理子が俺を呼び出すことはめったになかった。
「…野菜炒め作ったんだけど、食べる?」
「食わねえよ」
「食えよ」
恵理子が強引に狭いキッチンから野菜炒めを持ってきた。
その野菜炒めはかすかに湯気がたっていて、出来たてであることがわかる。
季節外れの白菜、にんじん、ピーマンに加え、鶉の卵、豚肉とエビにイカ、更になぜかチクワが入っていた。
「お前、入れすぎだろ」
「野菜炒めは何入れてもいいの」
こんな女と遊んでないで、早く家に帰って堤に連絡しなきゃいけない。
そう思いつつも野菜炒めをつまんで口に入れた。
その野菜炒めは意外とおいしかった。
「今日ね、お母さんから電話来たの」
「ふうん、何だって?」
聞きながら、エビだけをつまんで食べた。
「私達、もう今年で二十七だね」
「そうだね」
「私、これからどうしようかなと思って」
こいつ、何が言いたいんだろう。面倒くさい予感がした。