『はかないダイヤモンド』-5
オチきたあああ!
女の家ネタは何通りものオチが期待できる究極のシチュエーションだった。
女が自分の家だと主張するマンションの前に到着すると、そこには大きめの新築マンションと、明らかに不自然な空き地が広がっていた。 ちょっと部屋掃除してくるから待っててと言って、女は空き地を妙な回り道で通り抜けてマンションに入っていった。
落とし穴きたあああ!
俺はそわそわ待ちながら、頭を高速で回転させる。
女の通った経路から考えて落とし穴の位置を割り出す。
女のわざとらしい回り道は、番組スタッフの俺への暗黙のヒントだった。
15分くらいすると、女が出てきて俺に手招きをした。
俺は女目掛けて猛然と走り出す。
途中で、もしも穴を落ちずに通り過ぎてしまった時のために、ケータイをさりげなく落とした。
そして、落とし穴予測ポイントの直前で、何かに足を取られた振りをして日夜特訓を欠かさない芸術的なズッコケを披露した。
目の前に硬そうな地面がどんどん近づいていく。
一瞬、もしこれがドッキリじゃなくて、本当に頭の弱い女が声をかけてきたのだとしたらと考えた。
しかし、そんな束の間の恐怖を吹き飛ばすほどあっさり地面は崩れた。
落とし穴の中にはスポンジが敷き詰められていた。
俺はそこで番組スタッフが例の看板を持ってやってくるのを落ちたときの体制のまま待った。
笑いの神が降りてきたかの様に見せかけるズッコケが、面白いほど上手く決まった。
普通に落ちるのと、顔面から落ちるのとでは雲泥の差があった。
これでまた人気が上がる。
その時ふと恵理子の言葉が甦った。
―あんた笑われてるんだからね。
違う。
笑われてる振りをしているだけだ。
俺は今日の自分の計算しつくされた笑いに満足して、声に出さずに低く笑った。
仕事はますます順調だった。
レギュラー番組こそないものの、テレビの仕事は増えて顔も十分売れた。
同期の若手の中では群を抜いている。
それでも気になるのは相方とのギャップだった。
テレビに出るようになってからは、自然とコントをする回数は減った。
そしてその台本を書いていた相方は、影の薄いキャラクターのせいもあって仕事の数はかなり少なくなっていた。
最初のうちは二人でテレビに出ていたのに、番組の司会者などに話を振られても、上手い切り返しが出来ないでいるうちに出演オファーの数が減っていったのだ。
以前は頻繁に来ていたメールすらこの頃は来なくなった。