『はかないダイヤモンド』-2
子供の時から、人を笑わせるのが何よりも好きだった。
笑いの為ならどんなことでもやった。
今まで、他人の前でほとんど真面目な顔をしたことはない。
深刻な話をしたこともないし、そんな話に参加したこともない。
笑い以外の全てがナンセンスだった。
笑ってはいけない時、雰囲気、場所、全部クソ食らえだ。
笑えさえすれば、それでいいじゃないか。笑いはみんなを幸せにするんだ。
その考えを証拠付けるように、俺には友達がたくさんできた。
大学生になるころにはケータイのメモリーが300件を超え、週末は飲み会の予定でビッシリ埋まった。
みんな俺を必要としている。
俺が笑わせることによって、みんなを幸せにしてやってるんだ。
仕事が終わって、自分のマンションに帰ってきたころには日付が変わっていた。
この頃は人気が出てきて、収入も安定した。
その気になればちゃんとしたところに住めるのだが、俺が住んでいるのは古くて汚いマンションだった。
お笑い番組の企画で、突然自宅にカメラが入ることがあるからだ。芸人がきれいなマンションに住んでいては、笑いがとれない。
年季の入った階段を上りながら、部屋のカギを探した。その時、ケータイが鳴った。相方の堤からだった。
―今日は、仕事お疲れ様〜。僕は明日オフなんだけど、夜ヒマだったら飲みに行かない?
堤は自分と同じくらい、笑いを理解している同志だった。
―悪い、明日も仕事あるからパスするわ。
すぐに返信した。
最近、一人で仕事をすることが多い。
堤はネタを考えるのは上手いのに、アドリブが下手だった。
それでも、堤を心の底から信頼していた。
この世界に自分を引き入れてくれたのも堤だし、マグナム坂田とリボルバー堤のコンビ『お笑い刑事(デカ)』が、ここまでの人気になったのも堤がいたからだと思う。
俺の部屋は見苦しくない程度に汚れていた。
干しっぱなしにしてあるパンツと、床に積まれたエロ本はネタである。突っ込み所満載だった。
いつ誰が部屋に来ても準備万端だ。
いつもの日課で、風呂に入りながら今日の一人反省会を始めた。
あそこはもう少しベタでも良かったとか、少し前に出すぎたかなとか。
風呂から上がって、裸で体育座りをしながら、新しいネタを考えた。
面白いのができて、一人でニヤニヤした。
誰かがこんなことをしている俺を見たらウケるに違いないと思う。