『はかないダイヤモンド』-10
「もう、いいよ」
やがて、堤が疲れたような口調で言った。
「俺が悪かったよ。俺はお前の足を引っ張っていた」
「何言ってんだよ、お前…」
堤の言葉が頭に入ってこなかった。
「お前は面白い。ここまで来れたのも、全てお前の力だ。俺なんかいなくても一人でやっていけるだろう。俺みたいなのが、お前みたいになろうってのが無理なんだろうさ」
ずうっと二人でやってきた。
ここまで来れたのは俺の力じゃない。
二人の力だ。
どんなに辛い時も、苦しい時も、俺達はコンビだった。
友達だった。
「お笑い刑事は、今日で解散だ」
堤が楽屋を出て行ってから、一人で床に座りこんだ。
しばらくそうしていると、たまらない孤独感に押し潰されそうになって、恵理子に電話した。
―こちらはAUお留守番サービスです…
「クソが! どいつもこいつも…」
一人で怒声を上げて楽屋の壁を思いっきり殴った。
壁あっさりと穴が開いた。
壁にすら相手にしてもらえないような気がした。
笑いはみんなを幸せにするんだ。
今はその言葉が酷く空虚に感じた。
じゃあ、なんで恵理子も堤も俺を追いてっちゃったんだよ。
スタジオを出ると、辺りはすっかり暗くなっていて、湿った生暖かい風に肌が汗ばむのを感じた。
夜の賑わいを見せる通りを歩きながら、ケータイのメモリーに登録されている奴に片っ端から電話をかけた。
―なになに? 坂田君、また面白い話してくれんの? ぎゃはは。
―うん? 相談があるだと? またどうせネタだろうが。
―ごめん、今笑う気分じゃないから、また後にしてくれる?
どいつもこいつもクソばかりだ。
俺は自分のケータイを思い切り地面に叩きつけて、めちゃめちゃになるまで踏みつけた。
踏みつけながら、いろんな事を考えた。
恵理子の事、堤の事、今までの自分の事。
何度目かにケータイに足を振り下ろした時、砕け散ったケータイの残骸に足をとられて、コントをしている時にも見せたことがないくらい情けなく倒れた。
顔を強く打ち付けたアスファルトがひんやり冷たかった。