AH! MY GODDESS ラストストーリー-9
それから数時間後、二人は海の見える小高い丘の上にいた。無造作に腰を下ろす螢一の隣にベルダンディーも座る。穏やかな風が頬に気持ちいい。
『いい気持ちだなぁ』
そう言って螢一は草むらにねっころがった。日が沈む頃には自分はもう、この世にいない。忘れた訳ではないが、不思議と恐怖感は無かった。今、螢一の心の中を占めるのは、どうしたら彼女を助けられるのか……。ただ、それだけだった。そして、同じ事をベルダンディーもまた考えていた。どうしたら螢一を助けられるのかと……。
『そう言えばこんなコトもあったよね。』
不意に螢一は口を開いた。ベルダンディーとの初めての出会い、ウルドやスクルド、そしてペイオースやリンドの事……思いつくままに螢一は話す。
『螢一さん……』
話しの切れ目を見計らうように、ベルダンディーは言った。
『なんだい？』
『私は最後までここにいます、何があっても……。だから、私を天界に帰そうだなんて考えないで下さいね。誓いを破るつもりなんてないんですから。』
螢一の考えを見透かすように、ベルダンディーはそう言って笑った。
『じゃあ、君も俺だけを何とかして助けようだなんて考えないでくれよ？』
切り返して螢一も笑う。そう、互いの胸の内などお見通しなのだ。
陽射しは次第に赤く色づき始め、言葉を語り尽くした二人は互いに無言になっていた。寄せ合う肩、繋いだ手の平から伝わる温もり。そして、存在を確かめ合うように何度もキスをした。
『螢一さん、何か来ます。』
突然、緊張したベルダンディーの声が響いた。視線の先、夕暮れの空に白い軌跡が流れ、白銀の光りは砂煙りを巻き上げて螢一達の前に降り立った。身体に不釣り合いな程の戦斧を軽々と片手で持ち、夕日に浮かび上がるその姿。天界戦闘部隊ワルキューレの一人、リンドであった。
『間に合ったか……』
リンドはそう呟いて、ゆっくりとした足取りで歩いて来る。螢一は自分の後ろにベルダンディーを押しやり、前に出ようとする彼女を両手で押さえリンドと対峙する。
『そこをどいて下さい螢一さん！！』
それでも螢一は手を離そうとしない。リンドの言葉の意味を螢一は考える。そして、こう結論づけた。彼女は神の攻撃の前に、自分を消し去りベルダンディーを天界に連れ帰るつもりなのだと……。
『君が来るとは思わなかったよ。いや、君こそが適任なのかな？リンド』
驚く程に冷静な螢一の声に、ベルダンディーは瞬時に悟った。螢一が、これから何をしようとしているのか、そしてそこには自分が考えている最悪の結果が待っていると言う事を。
『螢一さん！！約束が違う！！どいて…どいて下さい！！』
取り乱すベルダンディーの拳が螢一の背を叩く。
『ゴメン……初めて君に嘘ついた……。でも、これでいいんだ。』
そして、リンドは螢一のすぐ目の前で立ち止まった。双眸は金色に輝き戦斧を振りかざす。それに呼応するように轟雷が響き、空から幾条もの光りが走った。天界からの攻撃が始まったのだ。それらは全て螢一へと向かって来る。