AH! MY GODDESS ラストストーリー-3
『だよな。神様に懺悔するのって、こんな気分なのかなぁ?実は……』
『待って!!』
螢一の言葉を遮り、ウルドは法術を唱える。耳鳴りが襲い、その後に静寂が訪れた。
『防音障壁結界を張ったわ。聞かれたくない話しなんでしょ?』
こういう時のウルドは察しが早く、行動的である。
『ついでに、もうひとつ頼みがあるんだけど……。言葉のプロテクト。あれって、人間にも出来るのかな?』
『可能だけど、人間には負担が大きすぎるから出来ないわ。そんなに封じたい事なの?』
螢一は真っ直ぐにウルドを見つめて頷く。その勢いに押され、ウルドは小さく溜息をついた。
数十分後、部屋の結界は解かれ、部屋を出て行こうとしていたウルドは途中で立ち止まって言う。
『あんた馬鹿だよ。』
『ウルド……誰にも話さないでくれよ。』
額に脂汗を浮かべ、肩で息をしながら螢一は言った。
『言わないわよ、言える訳ないじゃない!!』
『ありがとう…ウルド』
ハアハアと喘ぎながら螢一が言うと、ウルドは苦悶の表情を浮かべて舌打ちすると
『聞かなきゃよかったわよ!!』
そう言い残して乱暴に襖を閉めるとウルドは立ち去った。
それからしばらくの間は平穏に見える日々が続いた。精神力を擦り減らしながらも、表面上は何も無いように螢一は過ごす。しかし、そんな状態をいつまでも維持出来る筈もなく、ついにその時は訪れてしまった。螢一が仕事中に倒れたのだ。
『非常に衰弱していますな。』
診断した医者はそう告げた。自室で寝ている螢一の傍らで、渦巻く不安にベルダンディーは深い溜息を付いく。その時ふと寝ている螢一の首元に、僅かな法術の痕跡を見つけて彼女は、そっと手を翳(かざ)した。
(ああっ女神さま!より)
ドタドタドタッ!バンッ!!
『姉さん!一体どういう事なの!?』
普段の温厚な物腰とは打って変わり、軽く怒気を孕んだ言葉をベルダンディーは口にした。一方、当のウルドは対象的な程に穏やかな言葉で答える。
『そう……気付いちゃったんだ。』
『答えになってないわ!!なんであんな事したの?人間にプロテクト掛けるなんて……姉さん!今すぐ解いて!!』
『それは……出来ないわ。だって、螢一が望んだ事だから……。』
言葉を選ぶ様に、静かに語るウルドにベルダンディーは目を見開いた。
『う、嘘!!何をプロテクトしたの?姉さんは知ってるんでしょう?』
『それも言えないわ。プロテクトの意味が無くなるし、螢一との約束だから……。』
『でも!!このままじゃ螢一さんが!!お願い、姉さん!!』
取り乱した様にベルダンディーはウルドに詰め寄る。唇を噛み締めて、ウルドはそっとベルダンディーの髪を撫でた。
『約束を違(たが)える事は、私達女神が一番犯してはならない禁忌……。あなたも知っている筈でしょう?』
『わかってる……わかってるわ!!けれど……お願い……姉さん、お願いよ……』
そのまま、ズルズルとベルダンディーは泣き崩れてしまう。ウルドは思う、螢一の願いを聞いたときから、こうなる事は予想していたと……。そして真実を話せば、その後のベルダンディーの取る行動までも……。何故なら、女神にとって最大の禁忌ですら、あっさりと破ろうとしているのだから……。