AH! MY GODDESS ラストストーリー-13
(ああっ女神さま!より)
自分の為にウルドは惜し気もなく全てを投げ出してくれた。いや、投げ出させてしまったのだとベルダンディーは思った。
『姉さん……ごめんなさい姉さん……。』
ウルドに縋(すが)り付きベルダンディーは泣きじゃくる。そんな姉妹の頭を優しく撫でながら、ヒルドはうっすらと微笑んだ。静かに目を閉じ再び開くと、天空を睨み付ける。
『さあ、どうするの?あなたが全力で攻撃すると言うなら、私も全力でこの娘達を守るわ。始める?ハルマゲドンを……。』
大気を伝わって天界の長の動揺が辺りを包んだ。しばしの沈黙……。
『私にどうしろと言うのだ。お前にこの場を収める案があるとでも?』
長の問いにヒルドは不敵に笑う。
『忘れたの?魔属は考え無しに動かないって言ったでしょう?』
そう言って、ヒルドはチラリと螢一を見る。
『森里螢一、ユグドラシルが停止した時、女神の為に人間にしては最大限の手助けをした功績を踏まえて、記憶の消去に軽減。そしてベルダンディーは天界に背いた罪により女神としての全能力を剥奪し、人間に転生させた後で人間界ヘ永久追放する。……こんなところかしら?』
クックックッ……長の口から笑い声が漏れる。
『ずいぶんと都合のよい決定だな……』
ヒルドはわざとらしく肩を竦め、
『そうかしら?でも、娘と契りを交わした人間を消し去るのは、あなたとて忍びないのではなくて?』
そう言ってウインクした。
何の気無しの一言にヒルド以外の全員の視線が螢一に注がれる。照れたように頬を赤くしてポリポリと螢一は頭を掻いた。
『それは本当なのか?』
全員の疑問を代弁するように長は呟く。沈黙する場の雰囲気を破るのは、またしてもヒルドの笑い声だった。
『「本当なのか?」ですって……。これだから男って鈍くて嫌になっちゃうわ。どうする?ベルダンディー、彼の代わりに答えてあげる?』
ヒルドが意地悪く頬を突くと、ベルダンディーまでもが顔を真っ赤にして俯いてしまう。返事こそ無かったものの、その反応を見れば誰の目にも答えは明らかだった。
『仕方あるまいな…』
天界の長は溜息を付いた。
『ヒルドの提案を受理しよう。だが私も少し、付け加えさせて貰う。ペイオース……これから先、地上に留まり二人の監視を命ずる。二人の行く末を見届けるまで、天界に戻る事叶わぬ。良いな?』
長の言葉にペイオースはひざまずいて頭を下げた。
『リンド……定期的に地上を訪れ、状況を私に報告する事。これは、何よりも優先すべき特務である。』
リンドは直立不動で敬礼をする。