AH! MY GODDESS ラストストーリー-12
『ベルダンディー……守ってあげられなくてゴメン。』
ベルダンディーの手を握り、螢一は呟いた。
『いいえ……あなたがいてくれるなら……。私はそれだけで幸せです。』
握られた手を引き寄せ、ベルダンディーは螢一を抱き締める。
空の一点に光輪が拡がっていく……。ベルダンディーは両手を左右に伸ばし、何事か呟いた。すると手の平から光りが走り、ペイオースとリンドを遥か後方へと弾き飛ばす。
『ごめんなさい……ペイオース、リンド……私、嬉しかった。だから、ありがとう。そして、さようなら……。』
言い終えて、もう一度螢一を抱き締めるとベルダンディーは静かに目を閉じた。それに応えるように螢一もまた、しっかりと抱き締め返す。
空の光りは膨脹し、やがて巨大な矢と姿を変えると二人をめがけて降り注いだ。その矢が二人に届きかけようとした刹那、空間が歪み黒い穴が開く。光りの矢が穴に吸い込まれると、まるで何事もなかったかのごとく穴が閉じた。
『子供達にこんなモノ投げ付けるなんて、どういうつもりなのかしら?』
黒いマントに身を包み、腕を組んだまま半身に構えて臆する事なく天を見上げるその姿……。長の攻撃など意に介さず不敵に笑い、二人の前に現れたのは大魔界長ヒルドだった。
『何をしにきたヒルド!これは天界の問題だ。口を挟まないで貰おう!』
声を荒げる天界の長を前にしてもヒルドは微動だにしない。
『まあね、最初は見物だけのつもりだったんだけど……』
片目でチラリと長を見つめ、ヒルドは鼻で笑う。
『契約だから仕方ないわ……。この娘とのね。』
マントを羽織い再び跳ね上げると、ヒルドの足元に蹲(うずくま)ったままのウルドが現れた。
『契約……だと?』
ヒルドの台詞に初めて長に動揺が走る。大胆不敵に腰に手を当て、仁王立ちしたままヒルドは頷いた。
『魔属は神属と違ってお人好しじゃないの。無償で動くコトなんてないわ。』
ヒルドはウルドのネックレスを外すとベルダンディーに放り投げる。
自分の手の平に落ちたネックレスのロケットをベルダンディーはそっと開き、中身を見て驚愕した。何故なら、その中には天使の卵が入っていたからである。
『ヒ、ヒルド!!これは……。まさか!!姉さんの払った代償って……』
『察しがいいのね。そう、契約の為にウルドが私に払った代償……それは、魔界に帰属する事よ。』
ヒルドの言葉に天界の長を始め、その場にいた全員に戦慄が走る。ふらふらと立ち上がり、ウルドのもとへとベルダンディーは歩いた。
『う、嘘でしょう?姉さん天使が戻って、あんなに喜んでいたじゃない!!なのに、どうして!?』
ヒルドはそっとウルドの髪を撫でながら、首を振った。嘘ではないのだと……。そして、足元のウルドに向ける眼差しは限りなく優しい……。ヒルドは言う。
『それは、この娘の意志。そして、私に見せた覚悟。初めて見たわ、泣き叫ぶこの娘を…。そうまでしてもベルダンディー……あなたを助けたかったのよ。』
勝ち気なウルド……。
自信家で我儘で時々、嘘をついて……。
不器用だけど誰よりも優しい姉……。
溢れ出る涙をベルダンディーは止める事が出来なかった。
もう一人の自分と別れることが、どれほどの苦しみだったのだろう。
神である自分を捨て去る事に、どれほどの覚悟が必要だったのだろう。