AH! MY GODDESS ラストストーリー-11
『全身全霊を懸けて愛する人の為……』
何かに祈るように両手を組み合わせてベルダンディーは目を伏せた。
三者三様の思惑ではあったが、それぞれに決意を秘めて天界の長と対峙する。
『相手は人間なのだぞ?それがわからぬ、お前達ではあるまい……。』
ペイオースとリンドのあいだを割って、ベルダンディーは前に進み出た。
『私は神様から愛することの素晴らしさを学びました。そして、もっとも大切な無償の愛を……。彼女達はその思いから今、私の側に居てくれています。神様の教えの下に……。』
『相手が、同じ神属の誰かと言うのであれば、私は喜んで祝福したであろう。それが相手は人間で、しかもその為に女神の力を棄ててまで人間に転生したいだと?そんな事が認められるとでも思っていたのか?』
神の怒りは天の怒り……。にわかに空は掻き曇り、雷鳴が轟いた。
『最後の機会を与えよう。三人共こちらに戻りなさい。今なら、私に背いた罪は問うまい……。その人間を消去し、そして全ては元に戻るのだ。』
『納得出来ません!!一体、螢一さんがどんな罪を犯したと言うのですか?』
両手を広げて頭(かぶり)を振るとベルダンディーは叫んだ。
『人間ごときが神を妻にしたいなど、それを傲慢と呼ばずに何だと言うのだ?その罪、万死に値する。』
『違います!!螢一さんだけが望んだ訳ではありません!!私もそれを望みました。螢一さんだけのせいじゃありません!!』
『戻るのだ、ベルダンディー。お前を傷つけたくは無い。』
『嫌!!嫌です!螢一さんを失いたくない!!もし、どうしても罰さなければならないと言うのなら、私も一緒に……』
まるで駄々をこねる子供の様にベルダンディーは螢一にしがみついた。
(ああっ女神さま!より)
ふっと、嵐が止んだ……そして、つかの間の静寂が訪れる。
『ベルダンディー……』
沈痛なまでの長の声が響いた。
『どうして私を苦しめるのだ……。』
先程までの怒号と違い、深い悲しみを称えた声。
『天界の長たる私が、規律を破ることなど出来ぬと知っていて直も苦しめるのか?森里螢一……恨むぞ、このような辛い決断をさせるお前を……。』
静かな口調で、長は言った。それは取りも直さず決意を固めたという証でもある。
『後悔しないのだな?』
『……はい……』
『そうか……』
長の言葉と同時に草むらがサワサワと靡(なび)き出す。次第に風のうねりは激しさを増していき、大木の太い枝までしなり始めた。吹き抜ける風は舞い上がり、空の一点に集中して行く。膨大なエネルギーが蓄えられていっているのだろうか、気温までもが下がり始めた。
人間ごとき……確かにそうだと螢一は思う。これほどの力を持つ存在から見れば、人間などちっぽけなものでしかないのだろう。