王子様と私-1
目が覚めると、見慣れない天井がぼんやりと視界を覆う。
ベッドもだ。こんなにクオリティの高いものに身体を預けたことなんて、人生のうちに一度でもなかった。
もしかすると、夢から覚めるという夢を見ているのかもしれない。
そうだ、この最後の夢から覚めれば、いつもの日常に巻き込まれていくのだ。
何も変わらない、変わってたまるものか。
「……ようやく気がついたか」
私を満足させた脆い確信がはかなく砕け散る。
恐る恐る左に顔を傾けると、肩肘をついて私を見遣る黒い双眸。さらさらと長い黒髪は宵の闇に溶けるよう。
甘い容貌だというのに、ひどく怜悧な印象なのが不思議だ。
ついにはその微笑みも嘲笑にも見えてくる。
「そうそう都合よくはいかないものね」
こっそりと呟くと、耳ざとく彼が拾う。
「聞こえん。何だ?」
「……いえ」
私の返答に不満げに軽く髪を引っ張られ、抱き寄せられてはじめて、自分が素っ裸だということに気がついた。
ぎくりと身をすくませる私を無視して、彼は顎を掴み、馬鹿にしたくなるくらいやさしいキスをした。
彼の指先が乳首や胸を弄びはじめ、お腹の奥の方がじりじりと疼きはじめる。
「今度は俺を置いていってくれるなよ?」
囁きごと舌をねじ込まれ、私は眉根を寄せてきつく目を閉じた。
小さく喘いだ声をすべて彼に絡めとられてしまいながら、そっとほんの数時間前のはじまりを思い出す。
たぶん、彼の気まぐれだったのだと思う。
彼は王子様だ。
私の妄想の話ではない。もっと現実的に、地位として、王子様だった。
そして私は田舎領主の娘。領から城への忠誠の証として、侍女として王族に仕えるだけの存在だ。
私の領はお金がないから、私なんてほんとにただの下働きで、王子のお妃様候補だとかそういった地位ではなかった。
侍女の中にも格差はある、裕福な領の娘たちは私とは違う。夜伽の相手になり得るのは、私ではない。
……だというのに、なぜ私が寝所に連れ込まれているのだろう。
宵闇の中、ぼんやり廊下を歩いていたのがいけなかったのか。
「お待ちくださいませ、お気を確かに……王子、王子?!」
「気は確かだ。少しは黙れ」
王子の長い髪を結っていた紐で、私の手首を後ろで拘束する。
まさかの事態に私は震えた。
「……ちょっ……!」
「そうおびえるな。それともなにか、俺が初めてか」
ぞくりとするような甘い声音。
遠慮のないキス。
難なく進入してきた王子の舌が、息も唾液も気力も奪い、そして与える。
注がれた、飲み下しきれない唾液が唇の端から伝ってゆくのがわかったが、どうすることもできない。
肩をきつくベッドに押し付けられたまま、耳の穴に舌を入れられ、首筋、鎖骨と下ってゆく。
両手を拘束されたひ弱な私の抵抗を難なくあしらって、どんどん服を剥ぎ取り、ついにはほとんど服がその役割を果たさなくなっていた。
下着をずらし、かたくなった乳首を舌が這う。指先が太ももの付け根の割れ目を何度もなぞり、陰核をいじった。