フニと僕の成長期3.5-3
「だってぇぇ!」
「みんな、卯月みたいならいいのにな」
お父さんの大きな手が僕の頭を撫でます。
「お前はただフニを大事にしてやればいいよ」
それでも僕は、涙が止まりません。
「あのね、卯月。動物って、喋れないけどぜぇんぶ分かっちゃうんだよ。フニも卯月が何を考えてるか分かるよ」
お母さんも僕の隣に腰掛けてフニを撫でます。僕はフニの頬っぺたに自分の頬っぺたを押し付けました。そうすると、フニは柔らかい毛を擦り付けてきます。
「卯月は一生懸命、フニを可愛がってあげなさい。それでいいの」
「…うん」
僕は鼻水を啜りながら頷きました。
フニは僕に頬っぺたをくっつけたまますぅっと寝てしまいました。
それから数年経った今でも、僕はあの映像を忘れられません。
というか、忘れたくありません。
僕はあれを見て、自分は非力だと再認識しました。非力な自分に出来ることは、フニにあんな目をさせないことだと思いました。あの目を少しでも減らすことだと。
今日もフニはソファの上でぐで〜っとしています。溶けてます。
「フニ、おーいで」
『…あう〜』
体を支えてあげるように抱っこすると、ふわふわの尻尾を振って顔を舐めてくれました。
『フニだっこすき〜』
間近にあるフニの目には僕がうつっています。
フニにはずっと、こういう綺麗な瞳をしていて欲しいです。
●おわり●