仮面と黒猫の探し物-7
『そうだと…いいですね…。』
またひとつイルがため息をつくと、荷馬車を引いていた馬がそれに合わせるようにブルルヒっと鳴いた。
『お馬さんも頑張れって言ってるよ、イル。』
少し気を遣ってナナ。
しかしイルはもはや虚空を見つめるばかりで聞いてすらいなかった。
と言っても仮面をしているので本当に虚空を見つめているのかは解らないが。
『来い!仮面坊主!黒猫!おれの家族を紹介しよう!』
朗らかで太いガリフの声が、夕焼けのトトの町に響く。
『はーい。今行きます…。』
小さく返事をしながら、イルとナナは馬車を降りる。
『まぁいいじゃない。なんかのどかで本当に自然が豊かで綺麗な村…おっと『町』だよ。ゆっくりしていこうよ。』
『あんまりゆっくりなんかしないよ…。ここに来るまでに半月も費やしちゃったんだから…。人生は短いんだ。』
『着いちゃったもんはしょうがないじゃん。っていうかそれ言うなら猫生はもっと短いよ。』
『…なにそれ?猫の人生ってこと?』
『うん。猫生。今作ったけど。』
ナナはしたたかだと思う。
夕焼けに照らされて藍色に染まる、毛の短い尻尾がゆらゆらと揺れていた。
それを眺めながらイルはまたひとつため息をついて…
『仮面坊主!早く来い!』
ガリフの声がまた響いた。
こうしてトトの町にたどり着いた一人と一匹は、その後ちょっとした騒動に巻き込まれることになる。
けどそれはまた次のお話。
-つづく-