凛として惑わせて-1
どこもかしこも人ばかりで息が詰まりそうだ。
大晦日の百貨店の地下食品売り場は人でごった返し、売り場の人々の声が本当に聴きたい音すら掻き消し、雑踏が身体にへばり付き膜を張っているような錯覚を遊佐子に与えた。
遊佐子はごった返す人ごみで傍らを歩く夫すら見失ってしまいそうだ。
頬が以上に熱を持っている。
この熱は人ごみの熱気だけでない。
そのことを思い描くだけで熱い蜜は股間を滴り、ストッキングをねっとりとした湿気を纏わせる。
「…ねぇ、トイレ、行きたいんだけど」
遊佐子は少し前を歩く夫に声をかけた。
夫は面倒臭そうに振り返り、口を尖らせる。
「さっき、行っただろ。…我慢できない??」
芝居かかったようなしぐさで先ほど買ったてっちり用のフグの入った紙袋を遊佐子の夫は持ち変える。
「…うん」
遊佐子は夫の顔を見ず、俯いたまま答えた。
夫が溜息をした。
夫の顔を見なくても遊佐子は分かる。
店内の狭い通路に溢れた人々は通路の真ん中付近で立ち止まった遊佐子と遊佐子の夫を迷惑そうに避けながら、自らの進行方向に流れていく。
「タバコ吸えるトコで待っててよ。ケータイ鳴らすから」
遊佐子は夫にそう告げると、トイレの方へ身体の向きを変えた。
「はやくしろよ」
夫の少しイライラした声が雑踏を掻き分けて遊佐子の耳を貫いた。
その声が遊佐子は酷く腹立たしく感じられたが、股間の疼きを一刻も早く鎮めたかった。
一秒でも早く、千歳の声を聴き、千歳に快楽に貪欲になった身体を玩んで欲しかった。
携帯電話が鳴った。
千歳はゆっくりとベッドから起き上がった。
遊佐子用に設定した甘い女性シンガーの歌声が流れるだけで雄芯がもたげる。
スウェットの股間の箇所が膨らみを持ち、咽が渇いていくのが分かる。
千歳は髪の毛を掻き揚げると携帯電話の画面を開き、しっとりと愛蜜を溢れさせ、淫靡にうごめく遊佐子の性器を思い描いた。