鮮やかに凛として-1
桜の枝にオレンジ色に変色した葉がしがみ付いている。
吹き荒ぶ風にさらされているにも関ららず、しっかりとその身を枝から離さぬように懸命にしがみ付いているその葉は哀れで、より吹き荒ぶ風の冷たさを強調しているようにしか思えない。
千歳は窓の外の世界の寒さに身震いをすると、パソコンの画面に目を向けた。
ノートに走り書き状態で付けたデータを纏め、冬休み前の研究室のプレゼンで発表しなければならないのだが、思うように指はキーボードを弾いてくれない。
千歳は大きく深呼吸する。
デスクに置いた煙草の箱をおもむろに手に取るが、肝心の煙草が一本もない。
小さく舌打ちすると、赤いマルボロの箱を丸め、ポーンとゴミ箱に投げる。
「シュットッッ」
思ったよりもいい感じにゴミ箱に丸めた煙草の箱が入っていく。
それだけで、ちょっとモヤモヤした気持ちが良い方向に向かっていくような気がした。
研究室の日当たりに良い場所に作った小さな休憩スペースにいる後輩に千歳は声をかけた。
「…ぅぅう〜〜ん。なんすかぁ??」
後輩は似合いもしないのにKAT−TUNの赤西 仁を真似ている髪型をくしゃくしゃにして起き上がる。
「お前さぁ、煙草持ってない??」
千歳は後輩のデスクの引き出しをガタガタさせながら尋ねた。
「…ぁあ〜〜。キャンさん、そこにはないっスよ」
「じゃぁ、ドーコー」
千歳は拗ねたように言う。
「ぁぁあ〜〜、多分……」
後輩がベッド代わりにしているソファの下に脱いだダウンジャケットのポケットを面倒臭そうに探すが、求めるものが出てこない。
「オレもないっスねぇ……。キャンさん、サロンに行ったらどうっスか?誰かいるっしょ??」
後輩は大きな欠伸をして、毛布に包まろうとする。
「じゃぁ、お前が貰って来いよぉ」
千歳が後輩の毛布を剥がそうと後輩に馬乗りになる。
「何スかっっ!!もぉっっ!!!オレ、これから夜勤のバイトっスよぉ!!!」
後輩は枕代わりのジャンプを千歳に投げつける。
「いっってぇ!!!マジ、アブねぇっってっっ!!!」
千歳はジャンプをヒラリとかわしながら後輩に乗りかかる。
「つか、寝たいンすっっ!!!ぁあ〜〜もぉ〜〜!!!」
後輩は千歳の手を振り解き、頭から毛布を被りダウンジャケットを枕にしてソファに居座る覚悟を見せ付けた。