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こーゆうのもアリなワケで…
【SM 官能小説】

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鮮やかに凛として-2

 根負けした千歳は舌打ちをして、研究室の扉を業と音を大きく立てて出て行くと、サロンに向かった。

サロンは学生の間で勝手に呼んでいる里見研究室の休憩室兼秘書室だ。

サロンはパーテーションとキャビネットで区切り、部屋全体の三分の一ほどのスペースを秘書室として使用している。

以前は心が高鳴り、向かう足取りも自然とスキップするように軽くなっていたが、『あの夜の出来事』から千歳の足は遠のき、どんなに寝心地が悪かろうと研究室の狭いソファでで泊まりをするようになっていた。

 ほんの20メートルほどの距離を歩く足が今日は以上に重く、サロンまでの道程があるか彼方に感じ、気が遠くなってきた。

千歳は大きく深呼吸をし、根を張ったように重い足をゆっくりと動かし、残り数メートルの道程を意を決したように進む。

 遊佐子に顔を合わさずに、さっさと煙草を誰かにもらえればよいのだ。

ニコチン中毒なのか、遊佐子断ちをした禁断症状なのか、足は重く、足枷を付けて動いているようだ。

この時間は遊佐子は通常ならデスクワークをしているだろうから、ヘタに声をかけなければよいのだ。

冬の柔らかい西日の中で彼女は教会のパイプオルガンを演奏するように神々しく、デスクの上のデスクトップのパソコンのキーボードを操作していると思うだけで、千歳の心臓の鼓動は3倍速になる。

永遠に続くスタッカートの曲を演奏するかのように規則正しく、リズミカルにキーボードを弾く遊佐子の姿が千歳は酷く愛おしい。

 ……少なくとも2週間は遊佐子のいない時間を狙ってサロンに顔を出していたような気がする。

遊佐子の姿を見ると、心の中に詰まっているものを何もかも吐き出してしまいそうで千歳は怖かった。

深呼吸をして千歳はサロンのドアノブに手を掛け、扉を思いっきり開いた。

「……って、誰もいないしっ」

千歳は少し拍子抜けし、中途半端に空けた扉にもたれかかった。

入り口付近のカウンターの奥にいる遊佐子の姿はなく、学生達の休憩スペースにも誰一人いなかった。

「ぁンだよ……」

千歳はキャビネットに無造作に置かれたセブンスターの箱から一本煙草を失敬すると、ポケットからライターを取り出し、紫煙を燻らした。

応接セットのソファにだらしなく足を伸ばして座る。

ぼんやりと煙を見つめながら、頭の中で今日の日付を確認した。

━━11月の終わりの感謝祭紛いのパーティーからだから2週間ちょっとかぁ……。つか、マジ、やばいって……。……オレ、マジでヤバすぎだって……━━

暫く煙草を玩ぶようにダラダラ燻らすと、千歳はワンレングスに胸まで伸びた少し癖のある髪を手櫛で整え簡単に後ろでゴムに引っ掛けるようにして団子に纏めた。

好みではないセブンスターをもう一本失敬するかしないか少し悩んでから、結局一本失敬してサロンを後にした。

西日は暖かく、心地好い。

千歳は耳に煙草を挟んだまま、昼下がりの講義の声が子守唄のように聞こえる廊下を研究室とは反対方向にダラダラ行く当てもなく歩いた。


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