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トランス
【ファンタジー その他小説】

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トランス-1

 俺の名前は蘭光太。
 公立の中学に通う十四歳でうちは神社をやっている。
 見た目普通の中学生だけど、少し人より変わったところがある。
 普段は気が弱いところがあるんだけど、キレると手がつけられなくなるんだ。
 それも尋常じゃないくらい。
 最初にキレた時のことはあまり覚えていないんだけど、一番最初の記憶はもう一人の自分が友達を相手に暴れたことだった。
 気が付いたときには怖くて悲しくて大粒の涙をボロボロこぼして、泣きながら家に逃げ帰った。
 家に戻った時、父さんは何もかも分かった風で、俺には人と違った力があるのだから自分を抑えなければいけないと諭してくれた。
 その時は漠然と、抑えるべき自分というものを、力を持ったもう一人の自分ことだと考えていたんだけど、その時に何が起こったのか理解できるようになるとそれがあながち見当違いのことではないと分かってきた。
 責任転嫁する訳ではないけれど、そこには第三者的な、そして超常的な力が存在したんだ。
 それでも自分がしたことに対する責任はとらなければならず、俺は友達から常に距離をとることを余儀無くされた。
 神降ろしって知っているだろうか。
 中国では俺みたいなのをタンキーと呼ぶらしい。
 神仙を体に宿し、神懸かり状態になり神仙の力を自分のものとする術者のことだ。
本来は術者と依り代(霊を宿らせる物。人形の紙でも葉っぱでも、勿論人間でも可)が別にいたのだけれど現在では同じ人間が兼ねている。
 俺の場合修行が足らず、降霊にはきっかけが必要で自由に神降ろしはできない。
 ちなみに、俺に降りてくる神仙は剣の護法という。
 護法とは仏法の守護者で、昔うちの偉い御先祖様が使役していたらしい。名前を剣鎧童子というんだけど、知っている人の間では有名らしい。
 剣の護法の中でもかなり強力な力を俺はコントロールしていかなければならず、その為に、精神修養と術の実践に日夜明け暮れている。
 と言ってもそんなに大袈裟な事ではなくて、朝晩の末社(大雑把に言って神社の支店みたいな物。以前は町内会の人が交代で管理していた)の掃除と街の汚穢(おえ)の祓い(はらい)が俺の役割である。
 学校の行き帰りに街の片隅に溜まってきた汚穢を祓うのだけれど、汚穢と言うのは人の吐き出した感情の残響が吹き溜まったもので、放置しておくとつまずいたり転んだりちょっとした不幸が起こりやすくなる。
 不幸が続くと雪だるま式に汚穢が膨らみ、そこに意識みたいなものが生まれ、それが陰の気を取り込んで妖し(あやかし。つまり妖怪や化け物)になるんだ。
 妖しになると、祓うのは大変なんだけど、町中を完璧に見張るなんて出来やしない。
 結局、瘴気(しょうき、というのは悪い空気のことで大雑把に言って毒ガス。って、大雑把すぎ?)を追って妖しを退治する羽目になるんだ。
 つい先日も、学校の中で瘴気を感じたんだけど、どうも校舎裏に妖しが潜んでいたらしい。
 校舎裏には今は使われなくなった焼却場があって、そこには沢山の瘴気が漂っていた。
 ここは頭の悪そうな連中がたむろしていたりするのであまり近付かなかったんだけど今はそれが悔やまれる。
 取り敢えずこの辺りの土地公(土地神。この辺りだと狐とか狗とかが主流かな。大雑把にあんのうんりとるごっどとでも言っておこう。)に話を聞こうと思い、九字(臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前の九字。忍者とか陰陽師の映画でよく見るよね)を切り、呪符を一枚焚いて呼びかけてみるが反応が無い。
 濃い瘴気で出て来れないのか、それとももっとヤバいことになっているのか?
 このまま瘴気を放置してもおけないので土地を鎮めようと思い辺りを窺ってみると、ふと焼却炉に目がいった。
 扉に巻かれている鎖が垂れ下がり、錠前が壊されている事に気付く。
 まさか妖しが隠れているとも思わないが、気になって中を開けてみると、残された灰の中に学校の鞄が置かれていた。
 取り出してみると鞄の取っ手の部分に熊のキーホルダーがぶら下がっていた。
 女の子の鞄かと思うけど、どうしてこんな所に放り込んであるのかと首を傾げていると、タイミング良く持ち主が現れた。


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