僕とあたしの夏の事件慕? 第五話 「僕の事件慕」-4
「もう、何やってるのよ、真琴……」
「はは、急に気が抜けて……」
立ち上がろうとすると楓さんが手を差し伸べてくれた。
僕がその手に掴まって立ち上がると、こっそりとを耳打ちされた。
「ありがとう、真琴君」
小さい声だけど僕にはしっかりと聞こえた。
……でも、なんのお礼?
「おっと失礼、お嬢さん方はお風呂か……真琴君、覗きに行くなよ?」
「しませんよ!」
「そうかい? そりゃ失礼」
僕に手を振りながら自室に戻る楓さん。梓さんとなんか関係あるのかな?
「真琴、あんたもあっちに行ってなさい」
「あ、うん、ゴメン」
澪に促され僕は自室に引き返す。だけど、さっきのような漠然とした不安は無い。
だって、梓さんの顔には少しだけど、笑顔が戻っていたんだもん。
◇――香川澪――◇
いつもより早く横になるのは話し相手がいないことが原因。
梓は椿さんのとこにいるけど、変に気を使うフリをするぐらいなら行かないほうがいい。だって理由が理由だし……。
それにしても、なんだかんだいって真琴も男の子ね。
ついこないだまではあたしの後ろでピーピー泣いていたのに、一回りも大きな哲夫に怯まなかった。まぁ、それが精一杯なんだろうけど、それでもその成長が嬉しい。
いわゆる『男子三日会わざれば……』ってやつ? 背はちっさいけどね。
だけど、男の子は二十歳まで背も伸びるみたいだし、もしかしたらこれからどんどんかっこよくなるかも? そうなったら可愛い彼氏君から、晴れてカッコイイ彼氏になるかもしれない……なんて、そんなことあるわけ無いか、真琴だもん。
「真琴……」
つい口に出すけど、今度はすぐに輪郭が浮かんでくる。さっき見つめあったからかしら?
「かっこよかったよ……真琴……」
笑いかけてくれるあたしだけの真琴。
もう、そんなにしたいの? いいよ、しても……。でも、特別なんだからね!