僕とあたしの夏の事件慕? 第四話 「取引」-8
「ま、真琴さん、そんなこと……しちゃだめです……わたひ、イッた後、すぐイクくせがぁ……あ、あ、き、きもひいい……きもひいいれすぅ……」
愛美さんは小刻みに身体を震わせながら、赤ん坊のように僕にしがみ付く。
「と、とう……いいっ、うぅ、あぁ……ごめんなさい……またあたし、でも……」
何かを小さく呟く愛美さんは泣いているように思えた。
昔、僕が泣いていたら、澪はいつも優しく頭を撫でて慰めてくれた。だから僕も愛美さん優しくしてあげたい。
「あ、真琴……さん?」
少し驚いたような愛美さんはキョトンとした顔で僕を見る。年下の男の子の行為としては、ちょっと背伸びしすぎたかな? でも僕がしつこく髪を撫でていると、薄い胸に顔を埋めてくれた。
「真琴さん……、優しいです……本当に……。申し訳ありません……私、給仕失格です。真琴さんので二度も……でも、もう少し、このままでいさせて下さい……」
愛美さんはそれを言うのがやっとらしく、荒い息を繰り返す。
僕は愛美さんの背中に手を回し、その心地よい重みを堪能していた。
◇――香川澪――◇
別荘に戻ればみんながいる。少なくとも人がいるのなら奴らも手は出せないハズ……。でも、捕まったら何をされるのだろう……その不安があたしを走らせる。
ようやく別荘の玄関が見えてきた。けど、そこには楓さんの姿。もしかしたら理恵さんから連絡を受けて待ち伏せをしていたのかもしれない。
あたしは身を隠せそうな場所は無いかと周りを見る。
でも回りは林と田んぼ……? そうだ蔵がある。おあつらえ向きに掃除をしているのか、扉も開いているじゃない。本当はあんな黴臭い場所嫌なんだけど、贅沢は言ってられない。それに真琴が調べに来るかもしれないし!
あたしは一縷の望みにかけ、二階に駆け上がり奥の箪笥の陰に隠れた。
***―――***―――***
ようやく落ち着ける場所を見つけたあたしはどさりとしゃがみ込む。すると一気に汗が噴出してくる。
今は夏だし、全力で走ればそうなるのも当然か。でもここ、黴に混じって変な臭いもする。やだなぁ、早くお風呂に入りたい。だけど別荘の中は敵だらけ……って、もしかして夜もおちおち寝ていられないんじゃない?
あたしは軽く眩暈を覚える。なんせ、相手は短絡的思考の哲夫とエロ狸……夜這いでもされたら、か弱いあたしに抵抗する術が無い。
そんなこんなでしばらく頭を抱えていると、誰かの足音が聞こえてくる。
ようやく真琴が来たと思い、あたしは階段の陰から一階の様子を見る。しかし、期待に反し、現れたのは狸と愛美さん。あたしはできるだけ音を立てないように、慎重に一歩ずつ後ずさる。
……もしかしてつけられていたとか? にしては一階で何かしているらしく、二階に来る気配が無い。
少し様子をみていると、物音が遠ざかっていく。
気になって下に降りると誰もいない……しかし、出て行った形跡も無い。
どこかに隠れた……でも、何の為に?