エンジェル・ダストA-7
「上出来だ!これで分析が出来るよ」
うかれる大河内に対して、青ざめた顔で肩を落としている椛島。
椛島は、思い詰めた顔で語った。
「…教授」
その低い声に、大河内は思わず振り向いた。
「なんだね?」
「…もし、この中に未知のウイルスがいたら、我々はパンデミックを引き起こそうとしてるのですよ」
大河内は質問に鼻を鳴らす。
「それは断定してもいい、“絶対に無い”とね」
「何故、そう言えるのです?」
「自衛隊の措置だ。サマーワで感染し、悪化した時点で隔離したと私は聞いている。しかし、感染者と同じ部隊の者は帰国した時、一般の検査以外受けていないのだよ」
椛島は、信じられないという顔で大河内の言葉を聞いた。
「…それは本当ですか?」
「ああ、通常なら1週間は防疫措置が出来る病院で隔離して、ウイルスの有無をチェックするハズがその日のうちに帰宅させている。これは、私の信頼する助手が調べて分かった事だ」
自信を持って言い放つ大河内。しかし、椛島の顔は晴れない。
「…ならば、なおさらです。“ヤツら”は何かを隠している。それをこじ開けるのは、まさにパンドラの箱になりはしませんか?」
「まさにその通りだ!最後まで残ったのが希望ならね」
椛島は、エキサイトする大河内に見切りをつけた。
「…とにかく、私と城之内は知らない事にして頂きたい」
「分かっているよ。すべては私の責任だ、君達には多大な迷惑を掛けてしまったな…」
椛島は席を立ち、ドアに向かった。
「教授…もう、お会いする事も無いと思いますが…」
「ああ、君達の事は絶対に知らない。私の命に代えてもだ…」
大河内は、深々と頭を下げた。
空が朱に染まり夕暮れを迎える頃、大河内は先日伺った竹野の研究室に居た。
「先日、お願いしたサンプルが手に入ったのでね。調べてもらえないかね」
「分かりました!直ちに掛りましょう」
誰も居なくなった研究室で、竹野は原子の動きさえ分かるという、走査型フローブ顕微鏡の準備を始めた。
大河内は作業している姿を静かに遠目で見つめていた。これから起こる出来事に、興奮しそうな自分を抑えるために。