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エンジェル・ダスト
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エンジェル・ダストA-6

「ああ。特定がほぼ可能になったので、いま一度、資料をチェックしたいんだ」
「では、今日も帰りはご自身で?」
「そのつもりだが?」
「危険だと思いませんか?もし、教授に何か遇ったら、私達はウイルスの特定が出来なくなるんですよ」

(…コイツも何処までが本音やら…)

 苦笑いを浮かべた大河内は、佐藤の質問に首を横に振った。

「ここまでくれば、私が居なくても残りのメンバーで特定は可能だよ。それに、そう心配する事でもないさ。君達が訪れる前まで、私は公共機関を利用していたのだから」

 大河内はそう言うと、バックシートの角度を変えた。

「しばらく眠るから、着いたら起こしてもられないか…」

 そして、腕組みをして瞼を閉じた。まるで無防備な体勢を目にして、佐藤と田中は面喰らったような顔で互いを見合わせると、ひと言も発することなくクルマを進ませた。


「…教授…教授、起きて下さい」

 突然の声に大河内は、目を覚まして腕時計を見た。時刻は午後3時半を過ぎていた。

「大丈夫ですか?大分、お疲れのようですが」

 外を眺めて納得する。そこからは、実験棟が見えていた。

「目を閉じてすぐかと思っていたが、40分も寝てたとはな。しかし、おかげでシャキッとしたよ」

 大河内は、クルマから降りると軽く伸びをしてから実験棟へと向かった。残された佐藤と田中は、不可解と言った面持ちで遠ざかる後姿を見つめていた。

 思わず言葉を漏らす田中。

「…言ってる事、信じられるか?“特定出来る”らしいが」
「……分からん。とにかく、“次官”に連絡して今後の指示を仰ごう」

 佐藤はそう答えて、さっさとクルマに乗り込んでしまった。

「まったく。“見つからない”で済んでりゃ良かったのに…」

 田中は捨て台詞を吐くと助手席に乗り込んだ。クルマは大学を後にした。




 大河内は自らの研究室に設けられた私室に籠り、すべてをシャットアウトした。彼は人を待っていた。しかし、その顔に刻まれた深いシワは苦悩の跡がありありと浮かんでいる。
 時計の針が4時半を過ぎた。その時、私室のドアがノックされた。大河内は、慌てて立ち上がりドアを開いた。そこに立っていたのは椛島だった。

 大河内の顔がパァッと輝く。

「すまなかったね。君達には大変な苦労をさせて」

 椛島は俯き加減で黙っている。そんな彼を、大河内は中に招き入れるとイスに座らせた。

「…ところで“アレ”は持ってきてくれたかな」

 椛島は、コートのポケットに入れていた右手を出した。その手には小さなビニール袋が握られている。
 大河内は、それを受け取った。5センチ四方ほどの大きさのビニール袋は、上部に仕切りが有り、中にはガーゼ状のモノが赤黒く染まっていた。


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