僕とあたしの夏の事件慕? 第二話 「真夜中のカクレンボ」-5
◆――葉月真琴――◆
荷物の整理を終えた僕はベッドに腰掛けて今日のことを振り返っていた。
今出来ることはお昼に当主の間で見つけた藤一郎さんの手記を調べるぐらい。
この本に何か手がかりがあるのだろうか?
そんな出来すぎた展開を期待しつつ、読んでみる。
〜藤一郎の手記(一部抜粋)〜
……その日、私は始めて喧嘩で負けた。相手は三つも年上のガキ大将で……
……一足遅かった。後五分、いや三分もあれば、私が手に入れたはずなのに……
最初の方は幼少期の頃の話や苦労話、失恋の話などを時系列に語ったもので、それほど目を引くものはなかった。肝心の遺言書とかなら最近のことだろうと思い、後ろの方をめくってみる。
〜藤一郎の手記(最後の方)〜
……その日は暖かい日差しが差し込む、良い日だった。私はいつものように彼女に微笑んだが軽くたしなめられてしまう。
……やれやれ、皆には鬼のように恐れられている私も彼女の前では形無しだ。こんな姿は皆に見せられない、秘密の通路で彼女を訪ねる他ないか……
……君まで私を拒むのか……
……私は君を見送ることしか出来ず、木の影に隠れていた……
……風と共に君は去り、何度目の春が来るのだろう? 私がどんなに辛くても、君は戻らない……
……こんな私を愛してくれる美しい人よ、どうかこれからも側にいてくれ……
これ以降は全て白紙だった。
藤一郎さんが事業で成功した辺りから物語じみたものとなり、最後の方は詩というかなんというか、よくわからない文体に変わっていた。しかも、最近の事は何一つ無く、思い出の綺麗なとこだけを繋げて自己完結させているようにも思えた。
時計を見るとまだ九時半、夏休みの就寝時間なら一、ニ時間は早い。僕は眠るまでの間、他に手がかりになりそうなことを考える。
梓さんの話だと遺言書は当主の間に手がかりがあるらしい……でも、これといって目を引く物も無いし、この手記も意味のあるものだと思えない。
だいいち、どうして藤一郎さんは理恵さんに遺言書を託すなり、隠し場所を教えておかなかったのだろう。
……ちょっとまて、なんで理恵さん達はここに来たんだ?
遺言書が別荘にあると聞いていたにしても、肝心の真澄姉妹がいなかったら意味がない。っていうか入れないどころか無駄足じゃないか?
やっぱり「今日椿さん達が来る」ことを知っていたからこそ来たんだ。
でも誰が教えたの?
……もしかして理恵さんが言う『藤一郎氏に雇われていた』というのはウソで、本当は真二さんに雇われた弁護士?
だけど、楓さんはそういう感じじゃない。夕食の時だって、真二さんの話を邪魔をしていたような気もする。
……なんだか分からなくなってきた。
僕は推理をやめて目を瞑る。下手に動いて真二さん達に怪しまれるのは得策じゃない。今は空回りしそうな気持ちを抑え、明日に備えて眠ることにする。