崩壊〜親密〜-8
「何だよ〜、そんな事かよ」
「そんな事じゃないわ、大事な事よ。必要とされていないで産まれてきた子供ほど不幸なモノはないわ。だから、快楽のためだけならキチンと避妊しなきゃ」
「…わ、分かってるよォ」
仁志は、ふてくされたような返答をしたが、本当は涼子の気概に気負されてそう言っただけだった。
「でもさ、先刻、私の指舐めてた時、腿のところに仁志くんのが当たってたんだけど…」
恥ずかしさと、照れが入混じる顔で涼子に言われて自分の方が真っ赤になってしまう仁志。
「…そういうのってさ、出してしまわないと収まらないんでしょ?」
「…だ、だから?」
「その…この前みたいにオシリは出来ないから、手でなら…」
そう言いながら、涼子は跪いた。が、仁志は彼女の肩に手を掛けた。
「大丈夫です。もう、収まりましたから」
「…本当に?」
「ええっ!」
仁志は、笑顔でそう言うと上着を纏った。
「今夜は、ありがとうございました!」
彼はリビングから玄関ドアへと向かった。涼子は、慌てて後を追った。
「ご馳走様でした」
「今日はタクシーで帰りなさい」
「エッ?」
「今夜は遅くなったから。そこの通りなら簡単に拾えるわ」
涼子は、そう言って仁志に1万円を握らせた。
「…こんなに?」
「おつりは持ってていいわ。それより、また来てよ。待ってるから…」
仁志はにこやかに笑いながら帰って行った。涼子は姿が見えなくなるまで見送った。
そして、後姿が先の通りに向かって見えなくなると、ため息をひとつ吐いてマンションへと戻った。
涼子が自宅のドアを開けた。先ほどまでの喧騒が嘘のように、部屋の中は静まり返っている。
「フーーッ…」
受話器を取ってボタンを押す。電話に出たのは溝内真仁。仁志の父親だ。
「…あ…涼子です。ご無沙汰してます」
「今夜は仁志が…すまないね」
真仁は、冷静に受け答える。
「こちらこそ、仁志…くんを遅くまで引き止めちゃって」
「今、仁志は?」
「先ほど帰しました。後、30分もすれば帰宅すると思います」
涼子も真仁に合わせるように、穏やかな口調を続ける。