崩壊〜親密〜-5
「…あの、涼子さん。オレ、何かまずい事言ったかな?」
涼子は気まずい雰囲気を取り繕うように、作り笑顔を仁志に向けた。
「…昔、会ったのがまだ産まれたばかりで、それが16年経ったらこんなになってるんだもの。私も…人事ながら嬉しくて…」
話しを続けようとするが、たくさんの想いで言葉が詰まりそうになる。
「…だから、久しぶりに出会えて嬉しいの。気にしないで」
涼子の話を聞きながら、仁志にはもう一つ疑問が浮かんだ。
(…この人は時折、オレを見る目が変わる。とても優しい、温かな瞳で見ている時があるが、何故なんだ…?)
しかし、潤んだ瞳の涼子を見た仁志は、それ以上聞けなかった。
賑やかな夕食が始まった。と言っても、もっぱら喋っているのは涼子の方で、仁志は相づちを打つだけなのだが。
会話の内容は、終始、仁志の事で、学校生活は楽しいかとかスポーツは何をやっているかとか、休日の過ごし方や普段の事、果ては人生観までバラエティに富んでいた。
だが、聞かれた仁志の方はというと“はあ”“まあ”“そうですね”を繰り返すだけで、会話が盛り上がる事はなかった。
しかし、
「アレッ?仁志くん、コハダ食べないの」
「…はあ、父や母は好きなんだけど」
「ダメじゃない、好き嫌いがあるなんて」
涼子が、咎めながらコハダを口に運ぶと、仁志は困った様子だ。
「何度か試したんだけど、どうしてもダメで…」
「ウソよ」
「エッ?」
「コハダもだけど、私も最近なの。青魚を食べれるようになったのは」
涼子は、いたずらっぽい顔で仁志に微笑み掛けた。その仕草はとても新鮮に思えた。
「似てるわね。私達」
「…そ、そうですね」
ようやく緊張が解けたのか、仁志の顔にも笑顔が浮かんでいた。
夕食のひとときも終わり、2人はリビングに移動した。
「じゃ、始めましょう」
涼子がソファのテーブルに、ノートパソコンを置いた。コンソールを叩いて必要なデータを呼び出すと、ディスプレイ一面、薄紅色に変わった。
昼間見た、仁志の大腸の動画だ。よほど解像度が高いのか、細部まで鮮明に写っていた。
「昼間は細かく伝えられなかったけど…」
涼子は動画を止めた。昼間見た赤い部分がアップになる。