燕の旅童話集(全七編)-7
「そうか、学生には勉強が大切だもんな。
ごめんね、僕のせいで成績が下がって。
わかった。
今日はこのまま帰るよ。
今日は一生懸命勉強してほしい。
明日も明後日も、・・・。
しばらく会わずにいよう。」
お嬢さんはしゃくりあげながら、涙声で言います。
「いやよ。
そんなの、私はいや。
いいの、勉強なんかそんなもの。
成績が下がってもいいの。」
少しの間をおいて青年が言います。
「それはいけないよ。
第一、お父さん・お母さんが悲しむよ。
それに、勉強ができることを幸せに思わなくちゃ。
世の中には、勉強したくてもできない人もいるんだぜ。
僕だって、親父が元気なら進学したかった。
だから僕のためにも、一生懸命がんばってくれ。
受験がすんでからまた会えばいいじゃないか。」
「いや!
そんなの我慢できない。
まるで灰色よ。
高校二年よ、今。
青春時代よ、今。
楽しみたいわ。」
お嬢さんは涙の一杯たまった瞳を、青年に向けます。
青年は優しくほほえんで、こぼれ落ちる涙を拭いてやりました。
「わかった、わかったよ。
だからもう泣かないで。
二人で考えようよ。
どうしたらいいのか、考えよう。」
その後、この二人がどうなったのか、私は知りません。
青年の言うとおり一時別れて勉強にいそしんだのか、成績が下がることを承知で続いてるのか。
それとも、両立しているのか。
でもこの青年ならば、心優しい青年ですから、何とか乗り越えていると思います。
私は、遠くで二人の幸せを祈ることにしました。
それにしても、私に一つの疑問が湧いてきました。
”若者にとって、特に女性にとって、人生で最も重要な「恋」については何も教えないのでしようか、両親も、学校も。”