燕の旅童話集(全七編)-11
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昔々あるところに、一人の強欲な男がいての。
一つ山の向こうにいるという一つ目人間を捕まえて、見せ物小屋に出したら大金持ちになるだろうと考えよった。
一人での、険しい山を越え険しい谷を通り抜けて、一つ目人間の国に着いたとさ。
朝早く出かけたんじゃが、もうすっかり日が暮れてだーれもおらんかった。
寒い夜での、ブルブル震えたわさ。
どこで寒さをしのぐか思案しとった時にの、一軒だけ灯りのついた家を見つけたんじゃ。
その強欲な男はその家の戸をたたき、か細く弱々しい声で
『お願いです、もうお腹がペコペコで死にそうです。
どうぞ一枚のにぎり飯をお恵みください。』と、言うた。
少ししてその戸口が開き、小さな可愛らしい男の子が『どうぞ』と、その子の手よりも大きいにぎり飯をさしだしたよ。
ところがその強欲な男は、そのにぎり飯を受け取るように見せかけて、その子を抱えたまま一目散に駆け出しよった。
しかし、村のはずれまで来たところで、大勢の一つ目の人間に捕まってしもうた。
棒きれでポカリと殴られよった。
でのう、強欲な男が気が付いた時には、檻に入れられとった。
そしての、大勢の一つ目人間達に見られとった。
見せ物にされたんじゃよ。
初めのうちこそ、自分がまともじゃと思うておった。しかしの、一つ目人間ばかり見ていたものじゃから、自分のほうがおかしいと思うようになりよった。で、とうとう自分の片目をつぶしてしもうた。
一つ目になったんじゃよ。”
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おじいさんは、
「だから欲張りな大人になるなよ。」と、子供達に教えていました。
でも私には、もっと大切なことが他にあるように思えました。
私が燕であることを忘れかけていることを、このおじいさんは知っているのでしょうか。
もしかして、もしかしてこのおじいさんは、神様なのでしょうか。
神様が、このおじいさんの声を借りて私を諭してくれたのでしょうか?
空はどこまでも続いています。
高く、高く。
そして、彼方に。
はるか彼方に。
まだ仲間は見えません。
もう故郷に着いているのでしょうか。
お日様が、そろそろ沈みかけています。
何気なく見やった下界に、信じられないものを見ました。
今までにたくさんの美しい物を見、美しい人も見てきました。
でも、これほどまでに美しい光景と、そして美しい人を見たことはありません。
夕焼けが湖に反射しています。
その人の顔は、夕焼け色でいっぱいです。
静かに湖の傍に佇んでいます。
黒い瞳が素敵です。
でも、大粒の透き通った涙がこぼれ落ちています。
その涙は、湖面に大きな波紋を作っています。
どんどん広がっていきます。