燕の旅童話集(全七編)-10
(最終回) この世の花
私のこの羽の重さは、尋常なことではありません。
これまでにも度々羽の重くなることはありました。
でも、これほどまでに心身共に疲れたことは、重い病にかかった時ぐらいのものです。
私は、身の重たさ・だるさ・寒さ・そして身体の疲れからくる行動の機敏さを失い、この飢えをどうすることもできません。
どうやら迫りくるその時を、覚悟しなければならないようです。
神様のお決めになられた日が近づいていることを。
私は、仲間とともに死にたい。
その一心のみでもって、はるか彼方の地平線に目をやり、雲にかすんだ山々の連なりを見つめます。
水平線を見つめます。
仲間は、やはり見えません。
空には、煤煙が時折ただよってきます。
しかしそれさえも私の意識外のことです。
それほどまでに、身体が心が疲れ切っています。
下界では、罪深き者同士の醜い争いが続いています。
そんな中で、子牛さん・戦争犠牲者のおじさん・帽子さん・そして公園の甘い風に誘われた若いふたり。
そうそう、もう一組のふたり・一生懸命の織工さんもいました。
私は、その人達と話をしたこと。
その様子を見ていられたことを悦びとしています。
もう私の生命のろうそくは、今消えようとしています。
私は、もっと飛びたい、仲間に会いたい・・・。
私は、仲間とはぐれてしまいました。
悲しそうな目をした子牛さんに関わったがために、仲間はいなくなりました。
あれほどに母親に止められたのに。
下界とのつながりをもってはだめだ、と諭されたのに。
私は、仲間を裏切った、母親の愛情を捨ててしまったのです。
”違うんです、お母さん。
ちょっと寄り道をしただけなんです。
ちょっと好奇心が強すぎたのです。
私は、お母さんが大好きです。
仲間も大好きです。”
わかってほしいのです、お母さんに。
話したいのです、みんなに。
いえ、私は燕なのでしょうか?
こんなにも仲間と異なることを考え、異なる行動をとるのは・・・。
本当は違うのでしょうか、私の思いこみなの?
私は、一体、なにもの?
私は、唯々放心状態で漂っているようです。
私の身体は、次第に下界へと落ちていきます。
静かに、ゆっくりと、私の気づかぬ間に。
その時、私の耳に暖かい春の陽射しのような声が聞こえてきました。
目が覚めました。