ストーカー-4
四
挙式まであと五日。
今の秀次の頭の中の選択肢に、結婚を諦めるという道は無かった。しかし、相手があの女ともなると、不安が募る。
昔のあの時の事を未だに根に持っていることだろうから、相当な邪魔をしてくるに違いない。それが、今後の二人の事に影響することならば俺は許さない。逆に、俺が一生かけて邪魔をする。
と、ここまでいろいろな事を頭で思いながら、秀次は再びポストへと向かっていた。
503と書かれた引き出しに手をかけ、ゆっくりと引く。やはりそこにはあの手紙が。
秀次は家に戻ると、その封を開けた。そして、ゆっくりと読み上げた。
「私の永遠の恋人、櫻井秀次様へ。
もう諦めたかな?そろそろ結婚諦めないと、本当にヤバいからね。ちなみに私が誰だか分かった?ここまで来れば普通分かるよね。そう、貴方が思っているとおりのあの朝永美由紀よ。
あの日は本当に悲しかったんだから。でもね、もう大丈夫。私と貴方は永遠に結ばれる運命なんだから。
もし、ここで貴方が結婚を諦めなかったとしても、どのみち貴方は私と一つになるのよ。わかった?じゃあ、よろしくね。」
秀次は、吐き気が催すのをおさえつつ自分で自分の怒りを感じ取った。
こんなに怒ったのは久しぶりだった。最初の永遠の恋人の部分で大分腹が立っていたにもかかわらず、その後の文章で吐き気さえも催した。そして、やはり、美由紀の言っている永遠に結ばれると言う言葉がとても気になった。
そこまで一緒なりたいことをアピールしたいのか、とも思えるのだが、どうしても別の意味のような気がしていた。それに、どのみち、と最後に付け加えてある。と言うことは、どう転んでも美由紀の餌食になることは間違いないはずだ。
しかし、今秀次が一番気になっていることはそんなことではなかった。
なぜ美由紀が自分たちの結婚を知っているのか、についてだ。秀次の昔の学校の友達の中に美由紀と友達だった者は一人もおらず、そのほかに友達がいるわけでもなかったために、今回の事を本人に直接話をしなければ彼女が知ることは決してできないはずだ。だが、何故か今回の結婚を知っている。
そこまで考えれば普通浮かぶのに、秀次の場合は一時間悩んでやっと思いついたのだった。美咲の友達がいるではないか、と。
そこで秀次は、美咲に問いかけることにした。
ベッドに横たわり携帯をいじっている美咲は、階段を上りきった秀次に目を合わせた。
『どうしたの?』
頭をぽりぽりかきながら美咲に問う。
『あのさ、オマエの友達の中に美咲って言う友達いない?しかもその友達結婚式に呼んじゃったりなんてしてない?』
『美咲?いたかなーそんな人。でも、そんな人いたとしても、絶対に結婚の話なんて持ちかけてないはずだよ。』
『そっか。ありがとう。』
『美咲って、あの手紙の人?』
『そうそう。結婚のこと知ってるからおかしいなって思ってね。』
『でも、秀ちゃんの昔の同級生なんでしょ?だったらどこかから流れたんじゃないの?』
『いや、あいつの周りに友達なんて一人もいなかったからそれはない。』
『そっかー。私の中学には美咲って子いたけどね。でも、私の出身高知県だからありえないか。』
美咲は高知県から東京に上京してきた、いわゆる田舎娘なのだ。それほど離れた場所にお互いいたのに、美咲の友達と秀次の知り合いが共通するわけがなかった。
それから日にちはすぐ経ち、いよいよ結婚式前日となった。