【貴方だけを〜Eyes of Ryota〜】-2
「さぁ出来た!久しぶりに遼太が食べるって言うから,張り切ったょ〜炒飯!」
姉貴はいつもと変わらず,俺の座っている席のすぐ隣に来て,張り切って作ったらしい味噌ラーメンを,目の前のテーブルに置いた。
「おう,サンキュー。しかし…これで張り切ったの?ただのありきたりな炒飯じゃんかょ。」
「まぁ食べてみなさい!これで少しは姉のありがたみが解るってもんです。」
本当に,相変わらずだな…姉貴は。俺は心の中でそう思うと,久しぶりに味わう姉貴お手製の夕飯に箸をつけた。
「ど〜ぉ?姉さんの味は?」姉貴がいたずらな笑顔を俺に向けた。
可愛い…と言うより,愛しくて仕方なかった。
今すぐにでも抱き締めて,メチャメチャにしてやりたかった。そんな俺の欲望も知らず,姉貴は俺の顔に自分の目を近付ける。
「ねぇ!聞いてんの?」
「あ〜も〜分かったから!旨いょ,ウマイって!」
姉貴が無邪気に笑った。
「良かったぁ…あたし,もう遼太があたしの作ったご飯,食べてくれないかと思ったょ…あたしが,義理の姉ちゃんだって知ってから,遼太ってばあたしの事を避けるようになったしさ。」
姉貴が,哀しそうに笑った。
あぁ,そうか…流霞に男が居るって判って,俺が避け始めたのは,姉貴が実の姉弟じゃなかったって判った頃でもあったんだったな。
「ちげぇょ。そんな事で避けたりすっかょ。それとこれとは話が別なの。姉貴には関係ねぇよ。」
事実そうだった。俺がそんな理由で流霞を避けるとでも思うか?逆に流霞に男なんか居なければ,俺は今頃…
「ん〜,なら安心!」
考え込んでいた俺に,姉貴は安堵の声を漏らした。
「ところでさぁ遼太,あんた好きな人できたでしょ?」
「はぁ!?イキナリ何言ぃだすんだょ!!居ねぇよそんなの!!」
突然の姉貴の質問に,俺は心臓が止まるかと思ったぐらい驚いた。
「嘘だねっ!だって遼太みたぃな奴があんなに毎日朝練しに行ってるなんて,あたしを避けてたってのが理由じゃないならオカシイよ〜。さては…同じバスケ部の女の子にでもときめいちゃった?!」
姉貴の目がキラキラと輝いている。…姉貴は野次馬精神旺盛でおせっかいやきなのだ。だから,この手の話には目が無い。でも今の俺には,それがたまらなく苦しかった。
「あのなぁ…いい加減に妄想で話を進めるの止めろょ。俺はバスケ部の女なんてハナッから興味ねぇの。」
炒飯をきれいに平らげて,俺はわざと無表情に答えた。
そう,他の女なんて興味すら持った事がねぇんだよ。姉貴以外の女なんて…
「え〜?遼太ってばつまんなぃ高校生活してんのね。恋してなきゃカッコよくなれなぃぞ?」
俺のこの爆発しそうな姉貴への愛情を全く知らない彼女は,けろんとしてそんな事を言ってみせた。
「恋か…恋ならずっと昔からしてるよ。たった一人だけのために,ずっとな。」
―はっ!しまった…
俺はつい,この野次馬姉貴の前でバカな事を漏らしてしまった。姉貴の目が,いっそう輝き出した。
「なになに?!ずっと…昔から?分かったぁ!都ちゃんでしょ?!幼馴染みだもんねぇ…そっかぁ,姉さん遼太とこんなに一緒に生きてきたのに,ちっとも気付かなかったわ。」姉貴はまた一人で勝手に話を解決させて,その気で居た。かなり的外れな答えに,俺は拍子抜けしてしまった。
「…っ何で都なんだょ。俺は都じゃなくてっ…」
言いたくてたまらなかった。俺の好きな女は…姉貴,あんただよ,って。
「えっ?都ちゃんじゃないの?なんだぁ…同じバスケ部だし,絶対そぉだと思ってたのになぁ〜。」
姉貴は何故か落胆した様子で俺を見ながらそう言った。
「じゃあ誰なの〜?遼太の好きな人って。昔から一緒なんでしょ?都ちゃん以外にそんな子いたの?」
姉貴は,不思議そうにまた考え出した。
いや,多分,姉貴がどんなに考えてみたところで,判る筈ねぇよ…姉貴が俺を男として見てくれない限りはな。
もう,吐いちまうか…。
俺は,息を飲んだ。そして決意を固め,しきりに俺の恋の相手を気にする姉貴を見た。
「居るだろ?もう一人。都じゃなくて,もっとずっと昔から俺の近くに居る女がさ。」
姉貴が,ん〜と唸って考えている。俺は,心臓の爆音に殺されそうになった。気付くか?流霞…
「そんなん,判る訳なぃよ〜だってそこまで近い存在なんて家族とか姉弟とか……」
言いかけて,姉貴ははっとして俺を見た。気付いたのだろう。俺の告白に。
「あっ…あぁやっぱり判んなぃや。判んなぃからこれは宿題ってコトで!ね!」
姉貴が無理に笑って誤魔化してみせた。もう遅い。
「判ったんでしょ?姉貴。」
「そっそぉ言えばもぉとっくに食べ終わってるよね?片付けてくるから!」
「…っ流霞っ!!」