エッグスタンド〜a person's〜-3
「なんでオレがオマエを葬るんだ?」
「だって〜…私は薫より確実に早く死ぬでしょう。そしたら、遺骨を墓に納めてくれたり、惜しんで泣いてくれる人は必要だもん」
「そんなのオレはやらない」
「お節介焼きのクセに?」
「いくら何でも、度を越えている。オレのやる事じゃない」
「でも、“あの人達”のやる事でもない」
「だけど、普通はそうだろ?」
オレの言葉を聞いた途端、コイツは珍しく感情を爆発させた。
「冗談じゃない!将来、“アイツら”が入ってくる墓なんてイヤよ!」
沙那は強く否定の言葉を吐いた。“アイツら”…沙那の両親。
「…私ね。オモチャにされたの、父親に…」
突然の告白にオレは言葉も出ない。多分、口をあんぐりと開けて唖然としていただろう。
「1年前、寝ていた私は口を塞がれた。びっくりして目を覚ますと、目の前にいたのは、獣の目をした父だった…」
「…もういい。それ以上言うな」
考えて出た精一杯の慰め。だが、沙那は無視する。
「それから、毎日のように犯された…事が終わる毎に、私はシャワーを浴びて“あの人”の臭いを消していた。
それが母親にバレた。その時、“あの人”が私に見せた顔は、嫉妬に狂った女の顔だった…」
沙那は、すべてを話し終えると、また窓の外を眺めてマザーグースを歌いだした。
オレは、いつしか奥歯を強く噛んでいた。
性的虐待。
ニュースなどで取り上げられているのは知ってるが、それが、こんな身近で…オレの沙那が…
しかも1年も前から…オレは、まったく気付かなかった。
「すまん!…オレは…何も…」
涙が出て止まらなかった。“薫の知ってる私って、案外、少ないかもよ”コイツはずっと前から、オレにシグナルを送っていたんだ。それなのに、オレは気付いてやれなかった。
“どうしたらコイツを救える”と、オレは無い知恵を絞って考えた。そして、結論が出た。
「沙那!」
無視するコイツに構わず、オレは自分の考えをぶつけた。
「オマエ、今日からオレん家にいろ!」
この突拍子も無い提言には、さすがに顔を向けた。
「何、それ?」
「オマエの誕生日は、あと2週間あまりだろ。女はな、16歳で結婚出来るんだ。
だから、オレが結婚出来る18歳までオマエを預かる!」
オレの提言に、沙那は表情を曇らせる。