エッグスタンド〜a person's〜-2
「…そ、そんなの、薫の勘違いだよ。私は単に例えとして言ったんだから」
「そうか?」
オレは、沙那をベッドに押し倒した。
「何…?」
顔が怯えている。やっぱりそうか。
「やめて!薫、冗談でしょ」
「違う」
オレは、長袖シャツの裾に手を入れた。目の前に現れたのは、骨が浮き出た痩せた肢体。
そして、白い肌に浮かぶ数えきれない程の傷跡。
「…オマエ」
傷は、薄くなっているモノから赤いモノまで様々だ。
オレは見た途端、息を呑んだ。
「どうしたんだ?これ」
沙那はもぞもぞと起き上がり、シャツの裾を戻すと俯いたまま言った。
「…自分で…」
「嘘つけ!」
オレは沙那の肩口に手を掛けた。
「い、今まで、手首を切る度にオレを呼びつけてたオマエが、これだけ傷付けて何も言わないハズねえだろ!何があった。あっ?何があった!」
思わず力が入った。沙那の首がガクガクと揺れた。
俯いた。というより、力無く頭を垂れて沙那は黙っている。
「薫…」
「なんだ?」
「薫はさ、お節介焼きだよね」
…これは、コイツの本心か?それともごまかしか…
「だったら何だよ?」
そう訊くと、コイツは窓の外を眺めながら歌い始めた。
♪ハンプティダンプティ堀の上。
ハンプティダンプティ落っこちた…
幼い頃聞かされた謎解き唄。確か、答えがタマゴだったような。
♪王さまの馬が引張っても
王さまの家来が総がかりしても
ハンプティダンプティもう、元には戻らない♪
沙那は、次の歌を歌った。
♪父親が私を殺した。
母親が私を料理した。
兄弟が私を食べた。
私の骨はテーブルの下♪
何だ、これは。確か、同じマザーグースだったな。
「ねえ薫…」
沙那は視線をオレに向けた。その顔は、先刻までの焦りはなく、笑みの仮面を付けていた。
「私が骨になったらさ。薫は私を葬ってくれる?」
何を言いたいんだ。コイツは。