彼と私と青い月-1
月が青白く光ってる―――。
窓の内側でベッドのうえ、それをただ見上げていた。
パタン…。
背中で扉が閉まる音がして、音を立てた主はギィッとベッドをきしませた。電話が済んだようだ。
ふぅ…と、彼が息を吐く音が聞こえた。漂うマイルドセブンのかおり。以前は、私の前で煙草を吸う事はしなかったのに。
喉がつまり、思わずゴホッと咳き込んだ。
「あ、悪い。」
謝り消そうとする彼。ゆっくりと寝返りを打ちながら消さなくていいよと呟く。
「におい、嫌いじゃない。」
そういってから彼の瞳をとらえる。
でもすぐに外された。いつもそうだ。終わった後は気まずそうに避ける。
―――私たちは、かつて、恋人とよばれる関係だった。
今は違う。
彼には新しい恋人がいる。
にもかかわらず、裸で同じベッドで、事を終え一息ついている私達の関係は、なんと呼ばれるものだったか。
きっかけは、いつも同じ。
「ごめん、甘えてもいいか。」
彼からそう電話が入り。「いいよ」
私がそう答える。
そして抱きに現われるのだ。
「歩ちゃん、何だって?」
先ほどかかってきた電話の内容を問う。歩ちゃんとは、彼女だ。
「ん…ごめんなさいって。」
視線をそらしたまま答える彼。ふふ、と笑ってみせる。
「だから言ったじゃん、大丈夫だよって。すーぐ仲直りするんだって」
言いながら、一度頭を撫でてやってから立ち上がり、彼に背をむけ、ペットボトルから一口水を飲んだ。
「奏…」
「で?どうするの?弘人今日は泊まっていくの?」
振り返った私はにこりと微笑んでみせた。この関係に、一番必要なことだから。――何とも無いように、笑うことが。そして彼を安心させて引き止めるの。
すぅ…と、安らかな寝息が聞こえる。少し顔を上げ、隣にいる彼の寝顔を見つめる。
あなたは、相変わらず愛しかった。頬にそっと触れてみる。
あぁ、こうやって落ちていった先に、何があるのだろう。
いったい私は、何を守ろうとしているの。
でも、せずにはいられないのよ。
彼が月明かりに青白くひかる。
その肩にやさしくキスをして、窓の内側、
欠けていく月を見上げた。