エンジェル・ダスト〜Prologue〜-4
「いつから始めるのかね?」
大河内の問いかけに佐藤は即答する。
「教授の助手を務めるのは6人揃ってます。そして、こちらに持ち帰った部位の詳しい情報が記載されています。
出来ましたら、彼らを集めて分析手順を検討頂ければと…」
「そうだな。彼らを呼んでくれるか?」
「はい、直ちに」
大河内の言葉に、佐藤と田中はすぐに助手達を部屋に呼び集めた。6人のうち、4人は彼が知る大学教授だったが、残る2人は防衛省の人間だろう。彼が初めて合う人だった。
大河内は、知り得た情報を元にディスカッションを繰り返し、やるべき方針を彼らに伝えた。
「では、始めようか」
ディスカッションを終えた時、6人の研究者は彼の助手へと変わっていた。防護服を身に付け、レベル4である陰圧室に入ると、分析室の横に真空パックされた幾つもの肉片があった。
その、ひとつ々には“脾臓”や“右上腕3頭筋”、“小腸”など、40にもなる身体の部位が各部位ごとにラベルが貼られていた。
「では、ひとつ々、分析していこう」
大河内の声に、最初のパックが破られた。
夕方。
大河内をバックシートに乗せ、佐藤と田中が乗るクルマが防衛省中央司令部を後にする。
クルマは、森の部分を抜けて一般道に出た。が、大河内は終始浮かぬ顔で通り過ぎる景色を見ていた。
(…そんなハズはない。明日から調べれば、必ず特定出来る…)
初日、大河内は一番に変化をもたらす、肝臓と脳髄を調査した。死に至らしめる伝染病の場合、肝臓機能の低下と脳の炎症が顕著に現れ易い。
が、結果は、肝臓も脳髄もかなりの出血に伴う傷はあったが、機能障害や炎症の痕跡は皆無だった。
「彼らが言うように、未知のウイルスかもしれんな…」
呟く大河内の目に、野心が宿る。ここ数年、満足な論文を発表出来ぬ事で自分は学会の片隅においやられた。これを解明する事で、再び中央に戻れるのではと強く思った。
…「エンジェル・ダスト」〜Prologue〜完…