エンジェル・ダスト〜Prologue〜-3
「検体は、マイナス80度で保存してますから急ぐ必要はありません。しかし、分析には1週間、長くても10日で結果を出していただきたいのです」
お互いの話し合いの結果、分析は2週間後に行うことになった。
「では教授。当日には自宅にお迎えにあがりますので」
2人が出ていったドアを大河内は見つめていた。そして、新たな病原菌発見の可能性に心を打ち震わせていた。
「これで我々のプロジェクトは万全だな」
駐車場に停めたクルマの前で、田中は嬉しそうに語り掛ける。
「せいぜい教授には働いてもらって“結果”を出してもらうさ」
2人はクルマに乗り込むと、ゆるゆると正門までの道を進んで行、その先でスピードを上げた。
───
緑に囲まれた道を抜け、クルマは直線路に入った。正面には、巨大な建物が見えてきた。
地上10階、地下4階。横幅は100メートルに及ぶ建物。防衛省中央司令部。通称、Jペンタゴン。
そこに近づく途中に検問所が現れる。佐藤の運転するクルマがゲートの手前に止まると、すぐに警備がクルマを取り囲んだ。
「おはようございます。佐藤さん」
「おはよう。毎日の事とはいえ、あまり気分の良いモノじゃないな」
「これも規則ですから…」
佐藤は笑顔で答えながら、内ポケットからプラスチック製のIDカードを取り出し警備に渡した。
警備はカードを受け取り、識別機のある検問所へと走っていく。 その間、2人のバックアップマンが、前後でマシンガンを構えている。
カードを識別機にかけるとゲートにあるランプが赤から青に変わった。マシンガンを構えた男達が銃口を上に向けた。
「ありがとうございました。気をつけて」
警備は、佐藤にカードを返すと検問所に手を振った。
目の前のゲートがゆるゆると上がった。佐藤は軽く会釈をしてからクルマでゲートを潜った。
そこから300メートル進むと次の検問所があり、同様の手続きを取る。
そして、3つ目である最終検問所を通り抜けると、ようやく建屋にたどり着く。
「着きましたよ。教授」
言われてクルマから降りた大河内は、その威圧感のある雰囲気に圧倒される。日本中探しても、これほどの規模にはお目に掛れないからだ。
「こちらです」
大河内はエレベーターに乗せられ、最下階である地下4階で降りた。
「教授。この突きあたりが解剖室で、その右となりが教授の更衣室です」
大河内は言われるままに更衣室に入る。中には、クロークのそばに宇宙服のような防疫服があった。