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エンジェル・ダスト
【アクション その他小説】

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エンジェル・ダスト〜Prologue〜-2

「教授。私共の自衛隊が、イラクに派遣しているのはご存じですか?」
「まあ、新聞など報道による内容くらいわね」
「実は、教授に見ていただきたいのは、その派遣隊員のひとりの死因特定なんです」
「なんだって?」
「順を追って話しましょう」

 佐藤の説明では、事件は約1週間前に起こった。すでに帰還命令で主要部隊が日本に帰国していた自衛隊も、残る数十名も含めて3月までに完全帰還する予定にあった。
 そんな中、隊員のひとりが全身から出血させて亡くなった。前日の夕方位から症状が悪化し、寒気と嘔吐に襲われて意識混濁状態に陥った。
 帯動する医師団は伝染病と判断し、直ちに発症した隊員を隔離して他の隊員との接触を遠ざけた。
 そして10時間後、彼は身体中の穴という穴から血を流して死亡した。

「彼の部隊は、バグダッド郊外、サマーワという比較的乾燥地帯に駐留していました。ニカラグアやコンゴのような熱帯なら分かりますが、そのような場所で伝染病に掛かるとは考えられないのです」

 佐藤の話に同調するように、大河内は何度も小さく頷いた。
 確かに、エボラ出血熱やデング熱などは、熱帯雨林を中心に広く分布しており、バグダッドなど乾燥したデザート(荒地)地帯で、伝染病が見つかったなど初めて聞く事だった。

 大河内は、いつの間にか話に引き込まれていた。

「佐藤さん、その隊員は検体として持ち帰ったのかね?」

 佐藤は、問いかけに首を横に振った。

「いえ、まるごとは防疫の観点から諦めました。が、筋肉や内蔵、脳など、なるべく沢山の部位を切り取り、他は焼いて遺族に引き渡す予定です」
「つまり、その隊員が発症した原因菌の特定を私にやれと言うわけでだな?」
「そうです。ウチの研究所ならレベル4(死亡率、感染力の強い病原体)の病原菌分析も可能ですから」
「それだけの施設があるのなら、何故、自分達でやらないのです?」
「私達には、施設はあっても専門家がおりません。そこで、教授にご依頼に伺ったのです」

 大河内は考えた。確かに、この日本で細菌学や防疫学なら自分以上の人間は居ない。だが、病原菌の特定なら自分である必要は無いのではないかと。

「何故、私を選んだのです?」

 そんな大河内の疑問に佐藤は答える。

「先ほども申し上げた通り、普通の病原菌なら教授のお手を煩わせる必要はありません。
 しかし、今回は人類にとって、未知のモノかも知れません。もしかすると、パンデミック(感染爆発)を起こすかもしれません。
 ならば、教授のようなエキスパートに依頼し、今後の対策を考えるのが筋だと思ったわけです」

 佐藤の見事なセールス・ピッチに大河内は感銘を受けた。

「分かりました。但し、私にもスケジュールがある。何日、分析に費やされるのだね?」

 大河内の前向きな言葉に、田中と佐藤は素早く協議をしてから返答した。


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