やっぱすっきゃねん！Ⅲ④-7
「…！」
バッターは真っ直ぐのタイミングでステップした。が、ボールが来ない。身体が前方に流れてしまい、気を逸して見逃した。
（ヨシ、これでイケるな）
達也は２球目を要求する。サインは真ん中のフォーク。今度はすぐに頷き投げた。
バッターは真っ直ぐをイメージして振った。ボールは真下に沈んだ。
「クッ！」
巧みなコントロールでバットに当てたが、打球はボテボテのファースト・ゴロだった。
（上手くいったな）
その後の２、３番バッターへはチェンジアップを勝負球にして凡打に抑えた。
小走りで戻る淳と達也を、直也はベンチ前で出迎える。
「ナイスピッチング！スナオ」
自分の事ように喜ぶ顔を見た淳は、はにかむように笑顔を浮かべた。
「３人を８球で仕留めた。１巡までは変化球メインでいって、次からはオマエの持ち味を出すぞ」
達也が昨夜考えたリード。永井からもらった東邦中学のスコアブックを参考にしていた。
「さあ、行こう！」
永井の掛け声の元、５番一ノ瀬が打席に入る。
（球数を稼ぐんだ…）
いつもは６番を任されている一ノ瀬は、５番になっても役割を心得ていた。初球、２球目と際どいボールを見極めて見逃した。
２球、外角ストレートからの３球目。ピッチャーは内角高めに緩いボールを投げた。
一ノ瀬が身体を逸らす。が、そこから大きく弧を描いてキャッチャーミットに収まった。
「ストライク・ワン！」
主審の右手が上がる。
（なるほど。カーブも投げるのか）
一ノ瀬は打席を外し、軽い屈伸を繰り返してから素振りを行う。 待たされるピッチャーは、明らかに苛立っている。
当然、一ノ瀬の作戦だ。再び打席に入ると、ゆっくりと地面を掻いて構え直した。
ピッチャーは焦るように投げた。しかし、ボールは指にかかり過ぎてワンバウンドした。
これで、３ボール１ストライク。後がなくなったピッチャーは大きく息を吐いて自信の真っ直ぐを投げた。
真ん中高め、一ノ瀬は強く振り抜いた。が、打球は強い音を残してバックネットに突き刺さる。
（もうちょい上か）
そして、フルカウントからの球は意表を突いたカーブだった。
「ストライク・スリー！」
見逃した瞬間、主審が右手を強く振った。一ノ瀬は悔しそうにベンチに戻って来るが、直也や達也達は手を叩いて出迎える。
「これで球種は見極められる。良かったぞ！一ノ瀬」
５つの持ち球すべてを投げさせ、ひとりに６球も投げさせた事にベンチは盛り上がる。
６番稲森は、際どいボールをファウルにして１０球目をセンター前に弾き返した。