やっぱすっきゃねん!VC-4
「ケンカするほど…ですかね?」
「そうですね。本人達は気づいてないでしょうが…」
葛城の言葉に、一哉は笑みを浮かべて頷く。
「何が気づいてないんです?」
会話の途中から聞こえた佳代は、一哉に問いかけた。まさか自分達のことが話題になってるとは思っていない。
「こっちの話だ。それより、特別メニューはどうだ?順調か」
「他は何とかこなせるんですが、ロープ登りだけはまだ8回しか……」
未だメニューをこなせない事に声を沈ませる佳代だが、一哉は逆に驚いた口調だ。
「わずか3週間あまりで8回か…だったら、来年はすべての部員に取り入れるべきだな」
「エッ?」
意味が分からないという佳代に対し、一哉は諭すように答える。
「おまえにやらせたトレーニング・メニューは今後を見据えたモノなんだ」
「今後を?」
「今大会までの期間、それから秋から始まる新メンバーのために考えたんだ」
「じゃあ、私はその実験に?」
「秋から、おまえがやったトレーニングを1年生にも採用して鍛えるんだ」
佳代は思った。確かに、この3週間のトレーニングは、男子に負けないほどの筋力を自分にもたらしてくれた。
一哉は、ここで話を切り、直也に声を掛けた。
「なんでも、自分でトレーニング・メニューを組んだらしいな」
「…いえ、自分なりに考えて」
直也は困った顔で返答する。一哉の考えたトレーニング・メニューを否定して、自身で変えたのだから。
しかし、一哉は、笑みを浮かべて直也を褒めた。
「良い判断だ。自分で考えて現状を変えたいとするのは、実にピッチャーらしい」
「…ピッチャーらしい…ですか?」
「ああ、待とうとせずに自分から変化を求めるヤツは、ピッチャーとして大成するよ」
意味は分からないが、直也は褒めらた事で笑顔を浮かべると、変更したメニューを矢継ぎ早に一哉に伝えた。
一哉は、ひと言々に相づちを打ちながら、
「2週間経ったら遠投を70メートルに伸ばせ。リリースの瞬間だけ力を入れるように」
時折、アドバイスを混じえるだけで、メニューの変更についてはまったく異論を唱えない。
直也にすれば、自分の考えを認めてもらえた嬉しさと、そのことに対して助言をくれた事により、さらに高いモチベーションが心に生まれていった。
そんな状況を面あたりにした葛城は、改めて部員を育成することの難しさを知った。