やっぱすっきゃねん!VC-3
夜。
永井は一哉に連絡を取った。内容は無論、直也のことだ。
話を聞いた一哉の口調は温かだった。
「永井さんの配慮に感謝します」
「いえ、私は…ただ、オーバーワークになるのが心配で」
永井は照れ笑いを浮かべた。
「実は、来週あたりから走り込みとダッシュを増やそうと思ってたんですよ」
「え…?」
一哉は答える。昨年秋から基礎体力向上のために始めた8キロランニングは、限られた時間内に守備、打撃練習を行うという理由から2月には4キロに減らしたが、3ヶ月過ぎて基礎体力が落ち始めたと感じていた。
その対処として、これからの1ヶ月半、再び走り込みやダッシュを増やすことにより、体力と身体のキレを甦らせて、7月半ばの大会に選手の調子をピークに持っていきたいと。
「なるほど…練習にも波を作ってやるんですね?」
「それも、ただ戻すわけで無く、より高いレベルにします」
一哉は、詳細な練習方法を永井に語った。
しかし、聞かされた永井には、希望よりも不安が先に浮かんだ。
「それを、やらせるつもりですか?」
「そうです。特にピッチャーと来年の戦力に。まだ、どこのチームもやっていない練習です」
───
週末。
朝8時に集まった部員達は、次々とクルマに乗り込んでいく。今日の相手は、昨年の大会でベスト8だった東邦中学だ。
「よろしくお願いしま〜す」
今回も佳代に直也、葛城が一哉のクルマに乗り込んだ。
「今日はずいぶん早いですね?」
走り出した直後、佳代が一哉に話し掛けた。それをとなりで聞いていた直也が呆れ顔で答える。
「おまえ、東邦中学が何処にあるのか知らねえのか?」
「さあ…遠いの?」
「ウチの学校から、クルマで1時半は掛かる県境だよ」
明らかにバカにした直也の口調に、佳代はムッとする。
「だって、県内の学校なんて憶えてるわけないでしょ!東海とか瀬高、魁正ぐらいしか」
「そりゃオメェ、近くの中学だろ」
「うるさいなあ!そんなの知らなくても野球は出来るの」
いつもの“いがみ合い”がひとくさり終わり、お互いは“フンッ!”と言って窓側に身を向ける。そんな光景に葛城は目を細めた。