やっぱすっきゃねん!VC-2
「監督…条件付きって…」
「遠投は火曜と木曜の2回で50球以内。後は、金曜日をチェック日にあてる事」
要は火、木は遠投50球プラス投げ込み100〜120球。金曜は試合にむけてのチェック50球のみ。月曜を除くそれ以外の曜日は、投げ込みのみというわけだ。
7〜8割の力で修に向かって遠投を続ける直也。徐々にボールが指先に掛りだし、より低い軌道でボールが飛んでいく。
「ナオヤさ〜ん!これで50球です」
修は、既定の球数を告げると直也のそばに駆け寄った。
「ヨシ、じゃあ次な」
「ハイッ!すぐに準備します」
レギュラー・クラスのシート打撃が続くグランドの隅を通り、2人はブルペンへと向かった。
「ちょっと待ってて下さい」
修は、急いでキャッチャーの準備を始める。初めて着ける防具。そのため、調節などの勝手が分からない。
「…く…この…」
先輩を待たせている思いに、気ばかり焦り上手く調節出来ない。
「シュウ、どうしたんだ?」
修のもたつき様に直也は近寄った。
「…それが、プロテクターの調節が…」
「なんだよ、そんなことなら早く言えよ」
直也は修の背中に回ってしゃがみ込み、プロテクターのベルトを身体に合わせて締め付ける。手助けを受け、修は恐縮しっぱなしだ。
「すいません…本当にオレ、ダメで」
「気にするな。オレの方から頼んでんだから」
調節し終えた直也は“じゃ、頼むぞ”と言ってマウンドに戻り、キャチボールを始めた。
左足をゆっくりと上げ、1番高い位置でピタリと止めた。
(…1…2…3)
頭の中で3つ数えた後、身体を緩やかに動かしてボールを投げる。勢いや反動に頼らない、スムーズな体重移動を身に付けるために行う練習。
直也は、小学生の頃に教え込まれた基本練習のひとつを、自分を取り戻すために取り入れた。
グランドに打球音が続く中、永井と葛城は、直也の動きを時折見つめていた。
夕方。
自転車を押す佳代にとなりを歩く直也。部活帰り、2人は校舎横の通路を校門に向かっていた。
「どうだ?特別メニューの成果は」
「なんとかやってるよ。アンタこそどうよ?自己流の調整やってるんだって」
佳代は、今回のことを葛城から聞かされていた。直也は顔を少しほころばせる。
「今日からだからな…走り込みも10キロに戻して、遠投の回数も増やしたんだ。
おかげで身体のアチコチが張ってるけど、気持ちは前向きになった…」
直也のスッキリした顔を見た佳代は、笑みを浮かべて前を向いた。
「私も。最初はキツくてたまらなくて、心が折れそうになったけど、今は、絶対やれるって気持ちだもん」
新しい試みに挑戦する2人。その先にある夢を抱いて。