やっぱすっきゃねん!VC-10
「スナオー!打ってけよーッ」
佳代が手でメガホンを作って声援を送ってると、
「直也。佳代とブルペンに入れ。2人共、5回から出番だ」
永井の言葉に、直也と佳代は顔を見合わせた。
「オマエ、出るのか?」
「み、みたいだね…」
不安気な佳代に、永井は再び声を掛ける。
「どうした?さっさと行かんか」
「アッ、ハイッ、すいません!」
2人はグラブを掴むと、慌ててベンチを飛び出した。
(…また、試合に出れるんだ…)
キャッチボールを繰り返しながら、佳代の中では不安から嬉しさがこみ上げていた。
3番淳は何とか塁に出ようと喰らい付いていくが、結局、レフトフライに終わった。
(ひとつ狙っていくか…)
4番の達也は打席に入り、狙い球を変化球に絞った。
キャッチャーはカーブを要求する。
達也は思い切り引張った。打球は、高々とレフトに飛んだ。東邦のレフトは数歩下がっただけで追うのを止めた。先制のソロホームランだ。
その後の一ノ瀬と稲森は凡打に終わったが、さらにピッチャーの投球数を70球へと増やさせた。
4回裏。永井は、タイムを取って和田を伝令に向かわせた。
「ライト、9番と25番を変更します」
レギュラーの田畑に代わり、佳代がライトへと走っていく。
(…来た。出番だ!)
佳代は外野同士のキャッチボールを繰り返す。武者震いのように、身体が震るえる。
東邦の攻撃は3番から。彼らにとっても、追いつき追い越すチャンスだ。
バッターは初球を叩いた。打球は低い弾道でライトに飛んだ。
(うわっ!いきなり来た!)
打球を見た佳代は、地面を蹴って前に走る。ドライブが掛かったボールは、右に流れながら急激に沈んでいく。
落下点を見極め、スライディングで身体を滑らせると、ショートバウンドでボールを掴んで身体を跳ね起こし、素早くファーストに投げた。
「アウト!」
間一髪で間に合った。佳代が安堵の表情を浮かべていると、
「ナイスプレイ!カヨ!」
ベンチから直也や和田、それに田畑までが声援を掛けた。
佳代は右手のグラブを高く上げて声に応える。
その後、淳はヒット1本打たれるが、この回もゼロに抑えた。
5回表。打順は7番森尾。ピッチャーは初球、内角高めに大きく外した。