君にまた会う日まで-1
少しだけ汗ばんだTシャツの背中を見つめたのは、たった1時間前だったのに――
『君にまた会う日まで』
君は毎日わたしを家まで送ってくれて、それがだんだん当たり前になって、わたしは少しずつワガママになった。
「まだ帰りたくない」
20時を過ぎて、次の日、朝からバイトだった君は「帰ろうか」と言った。
だけど、わたしはまだ帰りたくなくて、一緒にいたくて、足を止めた。
君の袖をギュッと掴んだまま、ただただ俯いていた。
「…もう少し話そうか?」
私の様子を見た君は、そう言って微笑んだよね。
すごく嬉しくて、思わず大きな声で「うん!」なんて言っちゃって。
そんな私に、君は顔をクシャッとさせ、笑って見せた。
話した内容は他愛もなくて、でも一緒に居られる、それだけで嬉しくて、私たちはずっと笑ってた。
こんな時間が、こんな毎日が続けば良いと、心から思ったよ。
22時をまわって、座っていたベンチから君は腰を上げて伸びをした。
「そろそろ帰らないと、ね?」
ちょっと膨れっ面の私の前に、スッと手を伸ばして、
「行こっか」
と優しく微笑んだ。
君の笑顔が大好き。
優しく包んでくれる君の笑顔。
「…うん」
寂しいけど、君を困らせたくなくて、そっと手を取って、重い腰を上げた。
帰り道は決まって鼻歌まじり。
何の歌なのか分からないけど、いつの間にか私も覚えてしまって、一緒に鼻歌まじり。
ゆっくり
ゆっくり
私の歩調に合わせてくれる。
家の前。
繋いだ手に気持ちを込めて、ギュッと力を入れて、君もその手を握りかえしてくれて、そしてどちらからともなく手を離す。
「「じゃあまた明日」」
手を振って、背を向け歩き出す君。
私は汗ばんだTシャツの後ろ姿が、闇に消えていくまで、ずっと見つめてた。