Y先生の憂鬱-1
「ん、ふぁ〜あ」
試験問題が大あくびのせいでぼやけて見える。
「随分眠そうですね、山井先生?」
いきなり名前を呼ばれて横を向くと、数学担当教諭の高橋が職員室の引き戸を閉めたところだった
「あ、その…みっともない所を見せてしまってすみません」
恥ずかしくてつい小さくなる
「いえいえ、試験前は教師も生徒も大忙しですから」
言いながら隣のデスクに座って、作成中の数学試験問題を取り出す
大忙し、なんて言っているけど、高橋の手にある問題用紙が、もうほとんど作り終えたものであることを、私は知っている
私はまだ半分も終わってないっていうのに…
高橋は頭の回転と仕事が早く、いつも冷静でソツがない
要領の悪い私は一年先輩のこの男が少し羨ましかった
「どうかしたんですか?」
「あっ、な、何でもありません」
私は慌てて白い問題用紙に向き直る
二度目のあくびが出そうになったが、なんとか噛み殺した
土・日曜日共にあまり眠れず、週初めだというのにあくびが止まらない…
…ハル…じゃなくて、倉本君があんなことするから…
三日前倉本ハルにされた行為のせいで…
…というのは責任転嫁かもしれないが、思い出してしまうと眠れないのだ
生徒と関係を持つなんて、本当…だめだなぁ、私
ため息をついたとき、職員室の扉が開く音がした
「高橋せんせーいる?」
声ですぐ誰か分かり、つい体が強張る
「なんだ、倉本どうした?」
「数学のプリントー持ってきてあげたんよ」
「あぁ、今日の日直はお前か」
「笠井ちゃんも一緒〜」
意識しないようにしながらも、背後に聞こえるハルの声に耳を集中させてしまう
「ねーせんせー、最近笠井ちゃん、色気増したと思わね?男でも出来たかな」
「知らんよ、そんなこと」
高橋は、ハルの軽口を慣れた様子でかわす
私は、ついハルの方を恐る恐る見た
すると、こちらを真っすぐ見ていたハルと目が合った
「…まー俺が欲情する奴は一人だけ、だけど」
すぐに目を逸らしたけど、心拍数が上がっていく