Y先生の憂鬱-2
…何動揺してるの、私
高橋はハルの頭を、丸めた教科書で叩く
「職員室で言う話題じゃないだろ、馬鹿」
めんどうくさそうに言って、追い払うように手を揺らす
「じゃーにゃー」
ハルはにやにやしながら出ていった
私は妙な期待をする心を叱咤する
***
ばたん、と後ろ手でドアを閉める
…もー由希ちゃんたら分かりやすいなぁ
嬉しくなっちゃうよ
完全に俺のこと意識してる
…もう少し、辛抱すれば、君を手にいれられるかな…
ポケットの中のものを、優しく撫でた
***
授業中もなんだかぎこちなくなってしまうし…散々だ
ハルのクラスの授業なんて、ハルと目が合う度に顔が熱くなってたどたどしい口調になってしまい、ハルが小さく吹き出している様子もしっかり目に入った
ハルと繋がったときのことよりも…
私がハルの名前を呼んだ時の嬉しそうな顔や、「可愛い」と言ってくれたこと、いつも囁いてくれた「愛してる」の言葉…
ハルの表情の一つ一つが私の中で浮かんでは消える
自慢じゃないけど、あんな風に言ってもらったことなんて初めてで…
あれ以来言ってくれない言葉を、私はどこかで待ち望んでる
軽い調子で言われている内に、私、贅沢な奴になっちゃったのかも…
「はぁ…」
つい何度もため息をつく
「山井先生?」
後ろから声がして振り返ると、高橋が少し呆れた様子でこちらを見ていた
「あ、た、高橋先生…」
「試験前で気分が滅入るのは分かりますが…そう何度もため息をつかれると少し気になりますね」
「あっす、すみませんお見苦しいものを…」
「いえ、そうではなくて」
高橋が自分の席に座る
「業務に支障をきたすようなことは出来るだけ早い内に、解消しておいた方が良いということです
失礼ですが、山井先生は一つの仕事に掛ける時間が長いようですし」
高橋の言葉に、ただ小さくなる
嫌味で言われている訳ではないのが分かる為、尚更情けない