『LIFE LINE』後編-1
ターミナルの待合室で、僕は待ち続けていた。
用意したチケットは二枚。
行き先は、分からない。
窓に仕切られたガラスの向こう側。
ごった返す人波を、時折あてもなく眺めている。
サラリーマン風の若い男性は時間に追われるように、足早に歩く。
その前にいるグループは肩口から提げた大きな旅行カバンを背に、嬉しそうに歩いていた。
目的は違えど、ここにいる人間はそれぞれの理由を持ってこの場所に集まる。
誰でもない、自分自身で。
僕等と彼等の間にあるもの。
それは、隔たれた一枚の硝子なんかじゃなくて、橋のない川。
決して交わることのない境界線がある。
他人同士というのは、それほどに無関係であり、受け入れがたい存在だ。
大人になっていくにつれ、その思いは増し。
自我の確立とは反比例に、強くなっていく。
関わること自体が面倒になって、その川を飛び越すのも、泳いでわたる努力もいつしかしなくなって。
そうやって、僕達は歳を取っていくんだって思っていた。
なにも変わらないんだって思っていた。
だけど、僕はもう、知ってしまったから。
人を好きになる喜び。
その先にあるものが例え悲しい結末であろうと。
――先生、僕はこの道を選んで進んでいきます。
どこか遠くの滑走路から聞こえてくる音が、耳の奥に消えていく。それが出発の合図だった。
腰を上げ、まだ馴れてないスニーカーに履き替える。
アクリルの扉を開くと前方の人だかりから一つの影が顔を出した。
僕はその影に向かって手を振ると、頭上の天窓からたなびく一筋の雲を見上げた。
青く広がる世界に、それはどこまでもどこまでも続く。
そのスカイラインを、目を細めたまま、いつまでも眺め続けていた。
第二部
声が出なかった。
ただ、あまりに非現実的なコントラスト。生々しい光景に、吐き気がする。
僕はじっと後ずさりした。
それが畏れなのか、動揺していたのかも分からない。
気付けば、後ろ手にドアノブを握りながら逃げ出そうとしている自分がいた。
…僕は相変わらず、色んなことに対して免疫がなかったし、甘いことばかり考えていた。
そう。
今日見たことは、全て嘘だったと、なかったことにしてしまいたかった。
靴を履くことも忘れ、弾かれたように外に出る。
南西の空に、月がぽっかりと浮かぶ夜だった。
アパートの階段をゆっくりと上がってくる足音が一つ。
だんだんと近づいてくるそれは、通路の向こう側。月明かりによって輪郭がはっきりと形を現した瞬間、ぴたりと止んだ。