『LIFE LINE』後編-9
「友達の家ってどこ?お兄ちゃん毎回そんなこと言ってるけど、本当はどこに泊まってるのよ」
「僕が嘘ついてると思ってるのか?」
明菜はコクンと頷く。
「ホントだよ。勉強も兼ねて、合宿みたいにみんなで集まるんだ。お前もよくやるだろう?」
「だったら、誰の家に行くのか教えてくれてもいいでしょ?」
尚も引き下がらない明菜に対し、僕は苛立ちを覚え始めていた。
「しつこいぞ、お前」
「だってお兄ちゃん、逃げてるだけでしょ?本当は……」
そこまで言って、明菜は口を閉ざした。
タブー【禁句】を言ってはいけない。それはあの日から、写真展を見に行ったあの日からの僕の教え。
破ろうとした明菜を、僕は睨みつけた。
「行ってくる」
明菜は泣きそうになっていた。それを堪えるのが必死で、僕を止める術はない。
心配してくれる気持ちは分かっていた。
でも、理解してほしい。
この胸に刻みつけられた忌まわしい感情を。
それに巻き込まれてしまうのは、いつも妹のコイツなんだ。
だからもう、放っておいてほしい。
軋む音を立てて、ドアは静かに開け放たれた。
家を飛び出て、駅の方に向かって歩き出した。
風は凪いでいて、海の方から潮香を運んでくる。海岸沿いの遊歩道を東に、東に向かってただ歩を進めていく。
――行く当てなど、どこにもなかった。
二年生の頃は、バイトしてたこともあってそれなりに収入もあったから、ビジネスホテルに泊まったりして何とか夜を凌いでいたのだが……。
財布の中身は今の自分と同じくらい寂しかった。
明菜の言葉は概ね正しい。
僕は強がりの塊のようだった。
そして、どれほど時間が立っただろうか。
携帯を確認すると、メールが一件入っていた。
おそらく、坂本に呼び出された時にマナーモードにして、そのまま気付かずにいたんだろう。
ディスプレイの名前を見て、僕は思わず目を見開いた。
差出人は先生からだった。
連絡先を聞いてはいたのだが、こうやってメールがきたのは初めてのことだった。
僕はメールの受信ボックスをおそるおそる開けて、中身を読んだ。
『成瀬君へ
あなたは今 どこにいますか』
メールには短い文章で、それだけが記されていた。
僕は返信ボタンをクリックして、無意識に文字を打ち込んだ。
『先生
僕はここにいます
先生も知っている場所です』
メールはすぐ返ってきた。