『LIFE LINE』後編-4
詳しい話を聞くと長くなりそうだったので、なるべく簡潔に説明してもらったが、当時はその発表が新聞に載るほどで、ご主人も何度かそういったニュースを通じて彼の活躍を知ったそうだ。
遺跡発掘の当日、棗教授は一人の女の子を連れ現れた。
それが先生だった。
自慢の娘だ、と言ってご主人にそう紹介した棗教授の顔は本当に嬉しそうだった。
端から見ても仲の良さが窺えるほど、微笑ましい親子だった。
「まだ小学生だったけど、頭のいい子でね。父親の仕事を手伝いながら、僕に色々と教えてくれたよ。大抵は、親父の自慢話だったけど」
「なんか、信じられないですね。今じゃあんなに可愛げのない人が」
と僕は言った。
ご主人は苦笑して、言った。
「そういう時代だってあるのさ。勿論、君もね」
ご主人がこの町に店を構えたのは、その少し後だ。
念願だった自分の夢。
そして同じ時期に、棗教授が清新大に招致されて、親子共々引っ越してきた。
偶然が重なり、家族ぐるみの付き合いが始まった。
「そういえば、この店の初めての客は棗くんだった。思い出したよ。入り口で、入りづらそうに顔だけ出して中を覗いていたんだ」
「先生は1人だったんですか?」
「ああ、確かね。話した通り彼女は小さいときから父親の仕事で各地を転々としていたから、同世代の友達とかは、いなかったらしい。まあ、その影響で難しい本ばかり読んでいるような子だったから、尚更ね」
それでも先生はご主人の店に度々来るようになって、時間を潰していくのが日課になったらしい。
売り物はどれも高くて子供の手が出せる代物ではなかったが、本を読み、椅子に座り、一緒にお茶を飲んで過ごす時間は、子供のいなかったご主人には堪らなく嬉しかったのだろう。
年の離れた友人として、彼女の成長を見守ることが、一つの楽しみになっていた。
そして、先生が高校入試を控えた中3の冬、異変は起きた。
「失敗?」
「そうだ」
とご主人は言った。
「棗くんがずっと狙っていた第一志望の高校入試に、落ちてしまったんだ」
「そんなにレベルが高かったんですか?」
ご主人は首を傾げて、唸った。
「…うーん、僕はイケると思ったけどね。成績も良かったし。それでも、そこは県内でも指折りの進学校だったから、相手が少し悪すぎたのかもしれない」
僕は先生から直接指導してもらったからよく分かるけど、何かにつまづいたり、挫折するような先生の姿を、僕はまず想像できない。
少なくとも、その辺に転がってる石ころみたいなのとは、全然違うはずだ。