『LIFE LINE』後編-25
僕は、まだ本当の答えを手に入れていない。
彼女と交わしたささいな話、どうでもいい話、難しい話、楽しかった話。
その中で、もう飽きるほど繰り返した思いは……。
あの時先生は、幸せだったのだろうか。
嘘みたいな笑顔が張り付いて、今でも離れずにずっと残っている。
僕はしばらく外を見ながら、余韻に浸るように席に座り込んでいた。
「……圭一」
隣で経済欄を見ていた父が、声を掛けてきた。
「どうかしたのか?」
「…いや、何でもないよ」
僕は首を振ってそう答えると、淡い遮光色のカーテンを閉めた。
「ちょっと、思い出してただけだから……」
「日本のことか?」
短く頷くと、父さんもそれで納得したように、そうか、と呟いて視線を元に戻した。
「あと、二時間ほどで着くだろうから、我慢しろよ」
「何だよ、その言い方」
子どもをあやすような言葉に、僕はムッとしながら少し救われたような気持ちになった。
そして、父さんの言った通りに機内アナウンスが予定時刻に到着することを告げていた。
そうだ。
今、そんなことを考えても分かる訳がない。
父さんの仕事を学ぶ為に付いてきた僕が、どこに行くのか知らされていないように。
先のことなど、分かりはしない。
確かめるのは、その後でいい。
不安も、恐ろしさも、ないと言えば嘘になるけど。
それ以上に、僕には頼もしいこの人がついている。
そして託されたこの思いが、僕のこの足を動かし続けるんだ。
……いつか、この道の先で本物になれた時、僕は最初の写真を何にするかすでに決めている。
あの時言えなかった言葉に乗せて、僕はシャッターを切る。
この先の未来で。
僕を待ち続けている先生に向けて。
end