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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』後編-2

「君は誰だ?」

見たこともない男が、見たこともないであろう僕に向け言葉を発した。
四十過ぎくらいの髭面は、身なりも正しくキチッとしていて、その佇まいはどう見てもこの場には合わない。
注意深く観察していた僕を見下ろし、もう一度男は言った。

「君は、誰だ?」

射竦めるような視線。
そこには、明らかな敵意があった。
本来なら、ここで僕は訝しむべきだろう。初対面の人に向かって不躾に睨み付けるこの男こそ一体誰なんだ、と。
今、この場にいたっては不審なのは相手の方なのだ、と。

でも、僕には不思議と記憶の中に混在した既視感があった。
それはしばらくして、確信的なものになる。

男は小さく息をつくと、答えない僕にどいてくれと言わんばかりに肩を押してきた。

「あっ……」

体がよろめいて、腰から落ちる。軽くどけられただけのはずなのに、為すすべもなく地に手をついた。
男は倒れた僕を一瞥すると、半開きになっていた部屋のドアノブに手をかける。

ガチャリ、と鍵のかかる音がした。
慣れた動作で。
部屋は閉ざされ、締め出された訳でもないのに何故か悔しくなった。
同時に、逃げ出そうとしてた自分が恥ずかしくて、情けなかった。

脚を奮い立たせ、アパートを後にする。
行きがけに登ってきた坂を、駆け足で降りる。
バス停までの道は一人で歩くには、あまりにも長すぎた。
つい、余計なことを考えてしまい、そのたびに僕は足を止めた。
スーツ姿で現れた男の顔は、見たことがある。
いや、語弊だ。
読んだことがあるんだ。いつか借りた雑誌に載っていたその名前を、僕は小さく呟いた。

「……棗 恒彦」

清新大学考古学部名誉教授。
有名人だ。

そして、ここからは僕の推測。
彼はたぶん、先生の……父親。先生が教師になるきっかけを、作った人だった。
ひどく冷たい風が頬を突き抜ける。
あの蒸し暑かった夏は、静かに終わりを告げようと流れ始めたのだ。



翌日、僕は朝早くに起き、ハニワ屋の戸を叩いていた。
あの日以来、毎日のように通っていた店を、今日は僕自身の意志で訪ねていた。
全ての真相を知るために。

「圭一君?どうしたの、今日は早いね」

まだ開店前なのに関わらず、ご主人は快く僕を迎えてくれた。

奥に通されて、客間のソファに座って待っていると、エプロンを付けたご主人が慌ただしく入ってきた。

「ごめんね、店の準備がまだなんだ。今、お茶を淹れてくるから」

「いえ、結構です。それよりも聞いてもらいたいことがあって」

そのまま奥に消えてしまいそうなご主人を呼び止め、対面に座らせる。


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