『LIFE LINE』後編-16
電車に乗り、2つ目の駅で降りて坂道を下る。
家の方向も同じだから、当然のようについてくる。
逃げ出せそうもない。
マコはジェスチャーを交えながら、昨日プレイしたゲームの話をした。
小学生の弟に頼んで、子供達の間で何が流行ってるのか聞いたらしい。
そんなことを今から調べて、どうするというのだろう。
マコは、隠しダンジョンのボスが学年主任の坂本に激似でマジヤバいとかいうどうでもいい話を、えらく熱い様子で力説してみせた。
適当に受け流しながら、僕はこの後に待っているだろう父の話とやらを思い浮かべ、一人ため息をついた。
「それでその主人公の男の子がね、今までしてきた過ちを悔やんで神様に懺悔するのよ。誰もいない世界で、たった一人残った自分を責めながら。子供のするゲームとしては、ちょっと悲しいラストよね」
「へえ、ご愁傷様」
僕がそう返すと、その反応が気に食わなかったのかむっとした顔つきになった。
「何よ、そのどうでもいいって感じは?」
「実際どうでもいい」
「これの良さを理解できないなんて、圭一のセンスも疑わしいものね」
高3のこの時期にゲームに熱中できる神経が、僕には疑わしい。
「昔からそうよね、アンタは。何に対してもドライで、どこか冷めてる」
「そうかな?」
「そうよ」
マコは肩を竦ませて、小さく息をついた。
「今の高校に入ってからよ。
成績が上がりだして、背も少し伸びて、そこそこ運動神経は良いから、周りの女子達もちょっと騒ぐようになったけど。
でも何だか、どんなに誉められても、アンタ全然楽しそうじゃない」
とマコは言った。
僕は言い返す言葉を見つけられずに、じっと見つめるマコから目をそらした。
「圭一が本当に欲しい物ってなに?アンタにとって一番大事なことって何なの?」
「…………」
「悩んでるんでしょ?顔に書いてあるもん。分かるよ」
マコの鋭い眼差しに、優しげな光が宿った。
何もかも見透かされているようだった。
僕はマコの真っ直ぐな光が怖くて、その視線から逃げ出したくなった。
「迷ってるんでしょ。立ち止まっちゃダメよ。今の自分を見つめ直す時間なんて、後からいくらでもついてくる。
でもこの一瞬、この一秒は、人生でたった一回のかけがえのない一秒なのかもしれない。つかみ損ねたら、もう二度と戻ってはこないわ」
つまる所、マコは何を言いたいのか。
その正体を、なんとはなしに気付いていた。
ただ、臆病な僕には、勇気のない僕には、勉強しか取り柄のない僕には……そこから踏み出すことができなかった。
マコは振り返り、僕の後ろに立つと、軽く叩くように背中を押した。