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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』後編-10

『1人でいますか?
それとも、誰かと一緒にいるんですか?』

『いいえ、僕だけです』

『そこで、何をしているの?』

『特に何も。先生は?』

『私も何も』

『奇遇ですね』

『そうね』


今から来ませんか、という誘いにあっさりと先生は応じた。
まるで、絡んだ糸がお互いに引き合って、やがて一本の線になるように。
僕はボードウォークを抜けた先にある、灯台の下を目指した。
赤い光が、時折海に反射しながら、回り続けていた。
暗く深い闇をまとうその海を、健気に照らし、そして力強く存在を示す。
僕はその場所に集まる為に、こんな子供みたいな真似をして、家を出てきたのかもしれない。

灯台にはその真下に、小さな公園が建てられていて、レンガ造りの敷石が広がっている。
普段はあまり人気のない所だけど、この時間ともなるとより一層静かな空気に包まれていて、なんとはなしにもの悲しい。


一時間おきに動き出す噴水も、今ではじっと息を潜めている。僕は海岸に一番近い、鉄柵の前まで来ると、堅い石で出来た椅子の上に腰を下ろした。
先生が現れたのは、それから二十分後のことだった。


「キレイな夜空ね」

先生は地平線に浮かぶ星空を見上げながら、そう言った。
波の音が、一定のリズムに乗って打ち寄せてくる。
その音に抗うように、澄んだ先生の声は、どこまでも高く届く。

「成瀬くんも、そう思わない?」

「気晴らしには、いいかもしれませんね」

「そうよ。部屋に籠もりっきりはよくないわ。こうやって外に出て、風を感じて、空気を入れ替えるの。特に君達のような受験生には、大事なことよ」

「こんな時間でも、ですか?」

「こんな時間でも、よ」

時刻は既に夜の11時を回っている。僕はこの近辺に住んでいるからいいのだが、先生には終電がない。
心配になって聞いてみたが、先生は別に構わないと言った。

もうすぐ日付が変わる。
父さんは、もう家にいるのだろうか。今回は長期取材だったから、しばらくは休みになるはずだ。
持ち金もツテもない僕は、じきに家に帰ることになるだろう。その時は、嫌でも顔を合わせなければならない。
明日からのことを考えると、億劫で仕方なかった。

「どうしたの、暗い顔して」

そんな表情を悟られたのか、こちらをのぞき込むように先生が僕を見ていた。
すぐには答えられなかった。
ハニワ屋の主人の話を聞いて、先生の今の状況を考えると、この手の話題は避けたかったからだ。
でもそれとは逆に、どうしても僕には聞いてみたいことがあった。
それこそが真意ならば、動き出すことが出来る。
あれこれと思い悩み、やがて意を決する。
言葉を選びながら、慎重に話し始めた。


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