廉くんの不純な一日-5
「出来たよ」
俺の思いも知らずニコっと笑顔を向ける。
「廉?」
「えっ?あー、出来た?」
「何か変じゃない?具合でも悪いの?」
ぼんやりしていた俺を気遣う香奈の手が俺の額に触れた瞬間、俺の中で辛うじて繋がってた糸みたいなのがプチっと音を立てて切れた。
「熱はないみたいね」
ひんやりとした香奈の手を無意識に逃すまいとギュッと握る。
「廉?」
驚いた表情の香奈の手をグイっと引っ張り、もう片方の手は香奈の後頭部に回して机ごしにキスをした。
「んんっ…!?」
香奈は空いた手で俺を押し戻そうとしたけど、片手でしかも体格にかなりの差がある俺を止める事は出来なかった。
苦しげにもがく香奈の足が机に当たり乗っていたグラスを倒した。
ジュースはもろに俺の太ももを直撃して、その冷たさに驚いた俺は思わず香奈を放した。
「もうっ!いきなり何なの!?」
怒りながらも急いで俺にかかったジュースを拭う香奈がふと手を止めた。
「……これ…なぁに?」
香奈がジーパンのポケットに手を突っ込む。
ヤバっ!と思った時にはもう遅かった。
香奈の親指と人差し指に挟まれて出てきた物は……ゴムだった…。
じ―――っと俺を見つめる香奈に顔を上げれなくて俯く俺。
さっきまで吹っ飛んでいた理性が徐々に戻ってきて冷や汗が背中を伝う。
「廉の言う勉強ってこっちの勉強の事なの?」
香奈の氷柱のような視線と声に俺は思わず身を縮める。
「いやっ…それは…たまたま…」
苦しい言い訳をする俺にフンっと鼻を鳴らして香奈は言った。
「へ―。たまたまジーパンのポケットにこーゆーのが入ってたと言いたいのね」
返す言葉もない俺に香奈がさらに追い打ちをかける。
「ど―なんですかぁ?廉くん?」
出たっ!
香奈の『廉くん』
香奈が俺を『廉くん』と呼ぶ時は本気の本気で怒ってる時だ。
同じ怒られるならいっそ本音を言ってしまおうと半分自棄になった俺は顔を上げた。